「嘘つき! 今日は一緒にいてくれるって言うたやん」

私は今きっとひどい顔をしているに違いない。
柔造が困ったように顔を歪めた。

「だから堪忍やて言うよるやろ」

そう言う言葉すらも優しい。まるで大人と子供だ。
どうして「いってらっしゃい」と素直に見送れないのだろう。
今日は私と柔造の休みが偶然一緒だった。示し合わせたわけでもないのに一致したことが何処か嬉しくて、だから今日は二人でのんびりしようと決めたのだ。
一日中裸で、ベッドでちちくりあって。他愛もない話で盛り上がったりするはずだった。
柔造に緊急召集がかかるまでは。

「せやかて……!」

ほら、また。
また柔造を困らせようとする。
そんな自分に腹がたって唇を噛んだ。

「やめ」

ふわり、柔造で私が包まれた。大きな腕で優しく抱きしめられた私は、いつのまにか唇を噛むのをやめていた。
耳元にある柔造の唇から吐き出される息がくすぐったい。

「悪いんは俺や。やから自分を責めんな」

「ちが…!」

腕が少し緩められ、柔造が私の顔を覗き込む。

「違わん。お前のことやからどーせ素直に送り出せん自分にいらついとるんやろ? そんなん当たり前やんか。むしろこの状況で素直に送り出されたりしてん、傷付くわ」

「なんそれ」

自然、笑いがもれた。
甘えるように柔造の厚い胸板に顔を擦り寄せ、そこにキスをした。音を立てて少し強く吸ってやればそこに残る小さな赤い跡。

「早よ帰ってくるおまじないや」

顔をあげ、柔造の顔を見つめる。
どうしてこんなに赤くなっているのだろう。キスなんて毎日してるのに。

「おま…! 帰ってきたら覚悟せぇよ……! 絶対寝かしてやらん」

「ええ! なんそれ! じゃあ…、こっち?」

小指を立ててみせる。
なんてまた、子供じみた。
何も言わず柔造が私の小指に自分の小指を絡めた。

ゆーびきりげんまん
うーそついたら針千本のーます
ゆーび…

「きらへん!」

私が抗議の声をあげる前に唇を奪われた。触れるだけのキス、のはずなのに。
唇を貪られているような気がした。
絡んだままの小指が解けて、互いを求めるように手を握り合う。柔造の掌は大きくて私の手はほとんど埋もれてしまうのだけど。
しばらくして唇が離れた。口寂しい。
もっと、と言う前に柔造の手が離れ、体が離れ、彼は立ち上がっていた。

「柔造!」

「約束は守るさかい堪忍な」

笑って柔造が部屋を出て行く。ひらひらと手をふりながら。
その背中を私は見れない。

「柔造の阿呆ぉ」

吐き出した言葉は甘い香りを漂わせて、消えた。
中途半端な指切り。
私達の小指はまだ繋がってる?






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