彼の横顔を見ていると、胸がぐっと熱くなる。私のことを見ていない横顔は、何を見ているのだろうか。その横顔がこちらを向いて、目が合う。目が合うと、彼はにこって笑うのだ。気持ち良いくらいに、柔らかな微笑。それが少し恥ずかしくて一回視線を逸らしてしまう私。柔造はそんな私に少し笑う。そして、いつも決まってこう言うのだ。「なんや、こっち見てや」って。だから私は「恥ずかしいよ」と返す。横顔を見つめるのは好きだけれど、目と目が合うと、胸がぎゅっとする。ちょっと痛いような、でもどこか甘さを孕んだ不思議な感覚なんだ。だから、恥ずかしいのだ。そう言うと柔造はちょっと残念そうに首をかしげる。「でも俺の横顔は見とったやろ。俺は見たらあかんのか?」尤もなお言葉だけれども、見られたら恥ずかしいのだ。
 柔造をずっと見てると、ずっと胸がぎゅっとして痛いよ。でもね、目を逸らすとその熱い想いはすうって消えていってしまう。それは、痛みが消えるのだから、嬉しいことのはずなのに、ちっとも嬉しくなんかない。むしろ、どこかスカスカしていて寂しい。おかしいものだ、痛くて痛くてたまらないのに、この痛みが消えてしまうと、何か大切なものを失くしてしまったような喪失感があるのだ。変だ。

「柔造、ニコッて笑って」
「いや急に笑て言われても無理やわ」

 無茶振りには案外弱い柔造。あ、ちょっと今胸がチクッてした。これはどうしてだろう。
 笑ってくれない柔造に代わり、私が精一杯の笑顔を作ってみせる。そうすれば柔造は困ったような顔して私の頭を撫でてくれる。柔造が頭を撫でてくれるのも、好き。どこか乱暴なのに、手のひらからは柔造の暖かい想いがじわじわと沁みてくるのだ。それは髪の毛一本一本にまで行きわたり、次いでお腹の底にすとん、と落ちる。そうしてそこから更に足の指先までじわじわと沁みわたる。冷え性なはずの私の指先はそうすればもうほかほかに温まって、途端うれしくなる。でも、柔造の優しい手のひらが離れてしまうと、今まであった熱くて燃えるような想いは姿を隠して、指先は一気に冷えてしまう。そうすると私は寂しくてさびしくてたまらない。もっと触ってほしい、なんて思ってしまう。でも、もっともっと、なんて欲張って、ずっと柔造の優しさに触れていたら、きっとそのうれしい心も、熱い想いも、当たり前になって忘れてしまう。そう、たまにたくさんたくさんくれるから、だから愛しいと思えるんだ。恒久的に与えられる愛なんて、愛じゃない。
 ぼけっと柔造を見る私の腕を引く。私は柔造の胸にそのまま倒れこみ、抱きしめられる。太陽のような、暖かい香りが鼻孔をくすぐった。洗濯したばかりなのか、慣れ親しんだ柔造の香の中に混じってる。その香りがわかると、私は柔造の腕の中にいるんだな、ってよく分かるから、大好きだ。もっと、匂いを感じたいなあって思って、鼻を鳴らして柔造の胸に顔を押し付ける。

「なんや、今日はいつもより甘えたやなあ」
「うん、なんか嬉しくって」

 ぽんぽん。と優しい手が私の背を叩く。ああ、それだけでひどく安心する。ここは安心できる場所なのだと、全身の力が緩んでいく。
 ほっこりと体中暖かな気持ちに包まれ、次いでキスをしてほしい、と思う。キスしてほしいなあ、という想いよ伝われ伝われ…。念じれば、エスパー柔造は私のしてほしいことをしてくれたりするのだ。いや、柔造のエスパーだけでなく、きっと私の想いの強さも要因だよね。なんか照れちゃうね。
 私の想いが伝わったのが、柔造が私のあたまのてっぺんに触れるだけのキスをくれる。そのまま唇にしてくれればいいものを、なぜかそれだけ。やけに焦らされているような気になって、顔を上げたら柔造と目が合った。

「なあ、いっつも俺からばっかりやし、たまにはキスしてくれへん?」
「えー?どうしようかなあ」

 悩むふりをしてそっぽを向く。おちゃらけたような声で、柔造はしてほしいしてほしいって言いながら私の髪の毛をいじっている。「キスしてほしいんやけどな〜してくれへんの〜?」「ええ、本当?」「ほんまほんま」少し押し殺したような笑い声。楽しんでるなあこいつ。なら、してやろうじゃないか。
 期待してるのか、楽しげな顔の、顎先にちょんと唇を触れさせる。ちょっと髭がじょりってしたぞーこら。続いて、晒された首筋に、そして、隆起している鎖骨にも触れるようにキス。くすぐったいのか、時々身を捩るので動かないように両腕を掴む。そうして目尻に、額に、頬に、何度も唇を触れる。小鳥が啄むような拙い口づけ。接触面から、体中に熱が広がる。柔造に触れるだけで、どうしてこうも心が豊かになれるのだろう。もっともっと触れていたいと、もっともっと一緒に居たいと、心の奥から望んでしまう。

「鳥みたいやな、これ」
「んー…」
「ハハ、唇にしてくれへんの?」

 とんとん、と指で唇を指す。その指ごと食べてしまうような気持ちで、ばくり、私は柔造に噛みつくようなキスをする。
 私の中に燻る熱い想い。いつまでも、いつまでも、消えないでいて。








消えてく熱い想い
20110630//執筆
(自企画へ提出。ご参加してくださいました皆様へ愛を込めて)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -