どうしてそこにいるのが私じゃないの。

どうしてあの子なの。

こんなに柔造さんのことが好きなのに。

どうして…?






「…」

手元にある手紙に目を落とす。

『放課後教室で待っててくれへんかな?』

差出人は廉造。

いつかこうなることはわかっていた。

廉造が私に好意を持っていることは知っていた。

けれど廉造は私が柔造さんのことが好きなのを知っている。

柔造さんに彼女がいるのも知っている。

「…」

前に私は廉造に言ったことがある。



『私は何があっても柔造さんが好き。何があっても諦めない』



「そうやな。頑張り」なんて言った彼の笑顔は寂しげで。

それが今でも脳裏にこびりついている。

「…」

私は教室に足を向けた。









「…廉造」

「わ、来てくれたんや!!来ないかと思っとったわあ」

へらへら、と笑う彼はいつも通りで。

「…なぁ。意味、わかってて来たんやろ?」

「…」

「…もう3年やで。柔兄が彼女作ってから」

わかってる。

わかってるよ。

3年前から柔造さんは段々遠い存在になっていった。

元からそこまで親しくないから尚更。

廉造に、と何かと用事をつけて柔造さんに会いに行った。

「…俺じゃ、ダメなんかな?」

「……………いいよ」

「え」

俯いていた彼の瞳が私をとらえる。

「え、ほ、ほんまに…?」

「うん、ホントよ」

諦めたわけじゃない。

都合がいいから。

柔造さんに会うためだから。

罪悪感なんて、なかった。

がばっ、と廉造に抱き締められる。

「好きや、絶対離さへんっ」

「廉造…」

顔をあげそっと彼の耳元に囁く。

「私も、好きよ」




そっと囁いた残酷な嘘
(肩越しにある彼の酷く切なげな顔に私は気づかなかった)
(ただ、抱き締められる力が強くなるのを感じただけ)
(彼が気づいてることを私は気づかない)

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