志摩柔造という男は俗に言う幼馴染みというやつで、そして今は同僚という関係でもある。明陀の中でも結構責任を負う立場である彼とは違い、わたしは彼の弟の金造くんと一緒に警邏隊の一隊員をやらせてもらっている。ちなみに上二級祓魔師だ。
大きな責任を負うような立場は嫌だし、向上心もあまりないわたしが上級祓魔師まで上り詰めたのは柔造の影響である。
幼馴染みということもあって塾生のときもあれやこれやと柔造はなにかとわたしを引っ張り回したりしていた。座学も実習も熱心に取り組む柔造とずっと一緒にいたものだから、気づいたらわたしも同じくらい頑張ってしまっていたわけだ。
前に金造くんにその話をしたときは名前ちゃんてすごいんだかすごくないんだかわからんと笑われた。

「二人で任務なんて学生時代以来やんなぁ」

「確かに、京都に戻ってからはあまりなかったなぁ。隊も違うし」

「まあ警邏のわたしはしょっちゅうこんなんやってますけどね」

「警邏も大変やな」

「まあそらお互い様でしょ」

上級祓魔師が二人も駆り出されたということはそれなりに大変な任務なのかと思えばそうでもなく。強いて言えば難なく終わった任務の帰り道が、先程降った雨のせいで足場が悪いくらい。足場が悪くなくても普段から登山なんて経験していなかったわたしには、結構キツいものがある。まあ山に悪魔が出た以上祓魔師であるわたしたちが祓わなきゃならないんだけど。

「わ、ちょお、柔造待って」

「ん?おお堪忍な」

一方登山が趣味でしょっちゅう登山だの山籠りだのしてる柔造は散歩と同じ要領でひょいひょいと山を下っていく。いつの間にかわたしと柔造の間にはかなりの距離ができていた。

「はは、名前はだらしないなぁ。トレーニングも兼ねて今度俺と山籠りでもするか?」

「山籠りはちょっと嫌やなぁ……」

「じゃあ日帰りでロッククライミングなんてどや?」

「もっと嫌や」

つれないなぁなんて笑っているけど、実際にそんな誘いを喜んで受けるやつがいるのだろうか。特にロッククライミングとか。
先程のこともあってか、柔造はちょっと降りては振り返って後から来るわたしを待ってくれている。短気の割に昔から優しい。これが柔造が女性にモテる理由の一つなんだろう。

「ふはぁ、しんど……」

半分くらい降りたところで体力のないわたしはバテバテだった。
一方柔造はぴんぴんしていて、むしろ体力をもて余しているような感じだ。いくら鍛えようとも男女の体力差、こればかりは縮めることはできない。

「先、下りてええよ」

「はぁ?」

「わたしまだまだかかると思うから」

わたしの数歩先で待つ柔造に声をかける。柔造は不思議そうな顔でわたしを見た。
だって報告も早めに済ませた方がいいだろうし、わたしに合わせていたら柔造の帰りまで遅くなってしまう。もう間もなく夜になってしまうし、わたしに付き合わせてしまうのは申し訳ない。
その旨を伝えると柔造は、何故か不機嫌そうな顔をしてわたしのところへ戻ってきた。

「ドアホ!山に女置いて帰れるか!」

「きゃあ!」

いきなり怒鳴ったかと思えば、がっしりと腰を掴まれ米俵のように担がれてしまった。せめておんぶとかないんですか、とも思ったけど、大きい手とか太い腕とか、わたしが思った以上に柔造は男になっていて、それどころじゃなかった。
わたしの中の柔造は学生の頃で止まっていたものだから、そのギャップに思わずどきりとする。や、やばい、ちょっと惚れそう……!

「なんや名前、顔真っ赤やで」

「えっ!?」

「さては俺に惚れたかぁ?」

「そ、そんなアホな……!」




アフターケアはお得でしょう?
(惚れさせたんだから責任とって!)

「ちぇ、そろそろ惚れてくれてもええんになあ」

「そ、それはどういった意味で……」

「んー?ないしょ」







110706
企画、志摩うまさまに提出しました
素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!

実は学生時代から柔造はヒロインちゃんが気になってたとかどうでしょう。
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