「名前姉、向こう行ってきてええ!?」

「ええよ」

「やった!」

「気ぃつけてな」



そう言えば、坊や廉造君や子猫ちゃんは元気よく返事をして駆け出して行った。


縁側に座り蝉時雨を浴びながらおちびちゃん達の背中を見つめれば、夏の風物詩の完成だ。




汗をかいた麦茶入りのグラス。

向こうから微かに聞こえる坊達の声。


こんな毎日がずっと続けばいいのに、



なんて淡い想いを抱く私は、まだまだ子供なんだろうなあと自嘲した笑いが出た。



「ここにおったんか」

「!」



突然聞こえた声に肩を大きく跳ね上げてしまった。振り向けば仁平姿で頭にタオルを巻いた柔造がいた。菜園の手伝いでもしていたんだろう。



「なんや、柔造かいな…!」



未だにばくばくと鳴る心臓を落ち着かせれば、柔造は俺で悪かったなと言いながら私の隣に腰を下ろした。



「そないなこと言う名前にはこれはいらんなぁ」



そう言って私に見せたのは二つのゴリゴリ君。うおおお柔造様!「いります!」「現金な奴やなあ」笑いながら私にゴリゴリ君を差し出してくれた柔造、いや、柔造様はマジ神だ。

ひんやりと冷たいそれを袋から出し、口に含めば
ソーダの甘さと冷たさがこの暑さに一段と煌めいた。



「〜っ!んまいわぁ!」

「ははっ!そら良かったわ」



そして静寂。


しゃく、しゃく と
アイスの音が蝉時雨の中、異常に浮いて聞こえる。



こうして柔造と並んでアイスを食べられるのも今年で最後なんだろう。

来年になれば私は地元の高校に…柔造は祓魔師になる為に東京の高校に通う。そうなれば今みたいには会えない。擦れ違いはどんどん大きく膨らんでもう話すことも、会うことも出来なくなるんだろうな。


なんて考えていたら鼻の奥がつーんと痛くなってきて、涙が出た。



「!? どないしたんや!?」

「は、ははっ…ごめ、なんか…っ」



笑いは乾いたのしか出ないし、それに上手く喋れない。そんな私を見る柔造の顔は眉を下げ、とても悲しそうだ。ああ、もう。柔造にこんな顔してほしいわけじゃないのに。



「そ、そんな顔せんといて」



上手いこと言わなきゃ、



「私が勝手に泣いてるだけやし」



回れ、回れ、私の脳みそ



「せやから…っ」



ああ、駄目だ

涙が止まらない。ごめん、柔造。面倒臭い女でごめん。



「…何でお前が泣いてんのか、俺には分からん。ごめんな」



何であんたが謝るんや。
謝らなあかんのは私やのに。


困らせたいわけじゃないのに、涙が止まらない。

堪えていた想いが
一気に溢れ出してきた。



「離れた…ない…!」

「名前…、」

「柔造と…もっと一緒におりたい…っ!私、私…っ」

「…っ」



そのときだ。



ふわり


目の前が紺色で溢れ、柔造の匂いが私を包んだ。
それに気付いたのは少し経ってからのこと。



「俺かて…一緒におりたいわ!一人だけ泣きよって…この阿呆!」



柔造の私を抱きしめる力が少し強くなった。



「せやけど、俺は名前を危ない目に合わせたない。無理に一緒におろうともさせたくない。せやから…」



柔造の手が肩に触れ、そっと体を離される。

見上げた柔造の目尻は少し潤っていた。



「待っといてや」



真っすぐに目を見つめられ動けなくなる。



「俺、頑張るから。早よ祓魔師になって、ここに帰ってくるから。せやからそれまで待っといてや」



大きな手で顔を包まれ、優しい顔をした柔造に親指で涙を掬われる。


そないな顔して言われたら…っ



「早よ、祓魔師なって、迎えに来てな」



そう言えば、柔造は嬉しそうに「おん!」と返事をしてさっきよりも力強く、私を抱きしめるのだ。


ほのかに耳が赤かったことは、言わないでおこう。



このまま抱き締めて

(ずっと、ずっと…)




「ああ!!柔兄と名前ちゃんラブラブや!」

「「!!」」

「ゆ、言うたらあかんやろばか!!」

「〜〜っ!!ぐォラァア!!廉造ォ!!」

「なんでぇえ!?」

「あ、あはは…」



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