朝から彼女の姿が見当たらんと、坊らが泣き喚き出した
彼女は和尚が引き取ったから坊の義理の姉で、何も知らん坊は本当の姉や思うていて慕っとる
アイツ自身、坊を目に入れても痛ないぐらい可愛がっとる(ブラコンや、ブラコン。)
そんな彼女が坊を置いて何処かに行くわけないですよと宥めた
それでも坊は泣き止まへんし、子猫や廉造まで貰い泣きしよって大変やったから、これは宥めるよりも彼女を探し出した方が効率がええと思った
やから宥め役を蝮に任せて、心当たりがある場所へ走る





「やっぱ、此処におったんか……」
明陀の墓地の中にポツンとおる姿を見付けて、墓石の間を走って近付く
声を掛けたら、少しだけ驚いた顔して振り向いた
「柔造…どないしたん?」
「坊が心配しとったで」
「竜士が?」
「おん、わんわん泣いとる」
『お陰で廉造や子猫も貰い泣きして大合唱やわ』と言うと、彼女は苦笑いを浮かべよった
「ほな…帰りに駄菓子屋寄って、何か買うてこか」
「どこにそんな金あんねん」
「花を買うたおつり」
そう言うて彼女は供えられた花を指差す
「駄菓子やったら安いし、3人分買うても平気や」
「アホ、金造かて食いたがるから4人分や」
「お兄ちゃんなんやさかい、我慢させればええねん」
「何ちゅー、姉貴分やねん」
「うちは竜士の姉や」
『別にアンタの弟らの姉なった覚えはあらへん』と笑うとる
そないないけずな事言うても、ちゃんと4人分を買うに決まっとる
こいつはそういう奴や、と幼馴染やから分かる

幼馴染やさかい、此処におる事もおる理由も分かっとる



「今年も花…おおきにな」
花が供えられた墓石…『志摩家之墓』と刻まれた文字に目細めて言うと、彼女は『お礼なんぞ要らへんで』と返した
「うちが勝手にやっとるだけやし」
「でも、お父らは感謝しとるで……兄貴らの命日に家族である俺らより早くに墓を掃除して花供えてくれとるんやから」
『まぁ、お父らは誰がやっとるんか分からんみたいやけど』と言うたら、困った様な表情して『迷惑やなかった?』と尋ねてきよる
「迷惑やないで…つか、感謝しとるって言うてるやん」
「なら、良かったわ」
『八百造さんらを困らせたないし』と言いながら、マッチを擦る
側に置いておった線香の束を持つと『おおきに』と礼を言うて火を線香に近付けよる
「初めての共同作業ー」
「何、アホな事言うとんのや」「アハハハハ」
「ほれ」
火を消して煙が立つ線香を渡すと、その半分は俺に返された
「……は?」
「どうせ後でみんなで来るとは思うけど…供えたらどない?」
「いや…お前のやん」
「別にええやん。志摩さん、喜ばはるで」
「…ほな、」
『貰うわ』と線香を貰うて、供えてから手を合わせる



青い夜で彼女は家族を亡くし、天涯孤独になった
やけど、その家族の墓より早うに兄貴の墓参りをする
毎年毎年、命日と兄貴の誕生日に

昔、彼女が兄貴が好きやったんは知っとる
やけど、今でも好きなんかは分からん





「…なぁ」
「ん?」
「まだ兄貴の事…好きなん……?」
答えを聞くのが怖いくせに、聞いてみる
返事の言葉の代わりに彼女は笑顔を浮かべよった

『何、言うとんの?』と言いたげな笑みとも、肯定を示す笑みとも取れる



なぁ、どっちなんや?

ちゃんと言うてくれへんかったら、分からへんねん










笑顔だけじゃわからないよ
(ちゃんと言葉にしてや)
(期待してええんか、諦めなあかんのか、ハッキリさせてくれや)
(このもどかしさから解放してくれや)




企画サイト【志摩うま】に提出。
参加させていただき、ありがとうございました!!
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