私は二度も同じ人に恋をした。一度目は幼い頃、二度目は高校生になって直ぐ。いや、ここはちゃんと訂正しよう。二度に渡って恋をした訳じゃない。ただ忘れられなかっただけだ。どんなに忘れようとしても「好きだ」と思う感情だけは何時も変わらずに私の胸の中に居座り続けている。

だからこの気持ちが何時か薄れてくれたら良いのに、なんて願った事も何度かあった。けれど想いとは裏腹に、この気持ち薄れることなくどんどん育っていってしまう。私の意思とは相反して。



「柔造の馬鹿、ドアホ。いや、甲斐性無しの方がええんか?」

「……ほう、もういっぺん言うてみ?」

「げっ、柔造!アンタ何時からそこにおったんや!?」

「さて何時やろな〜」



てかそもそも、なんでこのタイミングで現われんねん!と小さい声で悪態を吐き出す。そしてその言葉を言ってからここは京都出張所の片隅にある縁側やった事を思い出した。出張所の一角なのだから、出張所に勤める人間なら誰でも足を進める事が出来る。せやから柔造がここに来た事はけして悪い訳でなく、どちらかと言えば油断していた私の方が悪い訳で…。これじゃあ只の八つ当たりだ。

はあ、と溜息をついて私の頭上に腕を組みながら仁王立ちで私を見下している柔造に視線を移した。縁側でゴロゴロと寝転んでいたので、自然と仁王立ちしている柔造を下から見上げる状態になっとる。あーあ、喋らなきゃイケメンなのに。ほんま残念なイケメンやな、柔造。なんて思いつつジィーっと目の前にいるしかめっ面を見ていたら、何の前触れもなしに柔造はその場にしゃがみ込んだ。そして一気に近くなる柔造の顔に、私の胸がざわつく。



「ほんま御前は可愛気のあらへんやつやな」

「……悪かったな、私は可愛気が無くて。てかそないん柔造には関係あらへんやん」

「ほぉ、それはどの口が言っとるや?これか?」



そう言って柔造は私の両頬を包んだ。そして更に顔を近付けてくる。あともう少しでお互いの口唇が触れるかもしれない、という距離まで近付き私はざわつく胸を握り締めて目を閉じた。その瞬間、口唇に柔らかい感覚が触れる。

驚いて閉じていた目を開ければ、そこに居るのは逆さまの柔造。そして私の口唇に触れているのは柔造の口唇だった。



「な、何してっ…!」

「何ってキスやろ?」



離れてしまった柔造の口唇を何故か名残惜しく感じながらも、私は驚きと恥ずかしさから来る怒りを沸々と身に抱え込んだ。それから馬鹿にされた事が悔しくて、私は不意に勢い良く頭を上げる。その頭は案の定、逆さまになっている柔造の顔にヒットした。

じんわりとした鈍い痛みが広がる額を左手で抑えつつ、私はドヤ顔で「どうだ、ざまあみろ!」とだけ吐き捨てて、脱兎の勢いでその場から逃げ出した。高鳴り続ける胸を、ギュッと握り締めながら。




(あのキスには、どんな意味があったの?)

志摩うま様に提出!
2011/07/04
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -