最後
姫「は、早く解毒剤を!」
姫が言った。
しかし、王子はそれを拒否する。
王子「……これ一つしかない。俺が飲んでしまえば町人たちが助からない」
姫「……どういう意味よ」
王子はどうみても死が近い。
王子「この解毒剤を中身を調べて、増やしてから、町人たちに使ってやれ……」
そんなことをしていたら、王子は確実に死ぬ。
姫「だ、だめよ!そんなことしたらあなたが……」
王子「ふふ…姫、どこまでも優しいな。だがな……俺はどちらにせよもう長くはない」
老婆があんなになってしまった今、この不治の病の進行を遅らせられる者はいない。
姫の顔からまたしても、涙が零れ落ちる。
姫「う、うう……」
王子「……すまない、俺はもうだめだよ」
王子は小さな声で、途切れ途切れに話す。
王子「姫……君はもう、1人で大丈夫だよ。俺は一回死んだ人間、もう一度……一人で前に進んでくれ」
姫「う、うん……」
姫はどうにか返事をする。
それに対して、王子はニッコリと笑った。
あの人懐っこい、笑顔。
王子「だから……応援してるよ」
王子の本当の最後の言葉。
王子「……君なら大丈夫だよ」
姫はそれに泣きながら、力強く、確信をもって返事をする。
姫「……うん、頑張るから」
王子の死顔は、綺麗なものだった。
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