展開



男「化け物呼ばわりしやがって!」 

男の怒りは未だに収まらない。 
今にも、王に斬りかかりそうな勢いだった。 

そんな男の叫び声を止めたのは意外な声の主。

姫「……王子」 

だらんと下を向いていたはずの姫が気づくと、顔をあげていた。 

姫「……王子、あなたはそんな人に責任を押し付ける人だったかしら?」 

剣先を喉に向けられてるというのに、それをも厭わず姫は話す。

男「……どういう意味だ?」 

男は驚きつつも、威圧的にその声に言葉を返す。

老婆「……やめるのじゃ」 

もはや、老婆の声など誰の耳にも入らない。 
王は黙って、下を向く。

姫「確かにあなたのその姿は皆が化け物だと言ったわ」 

姫が話し出す。 

姫「けど、あなたは勝手に怒って、暴れていただけじゃないかしら?」 

姫の言葉は的確なことをついてくる。
男は自分の姿を受け入れられず、何者か、聞かると、ただ怒り狂うのみ。

しかし、男は反論する。 

男「ふざけるな。こんな姿でなにを言っても、誰もなにも受け入れないだろう!」 

姫「私は初めて会い、姿を見せたあなたを否定したかしら?」 

その男の言葉に、姫はすかさずそう言った。

男「……」 

姫「結局あなたは、自分で自分を受け入れられてないだけだわ。違う?」 

姫にそう聞かれ、男は逆上し大声をあげた。

男「違う!!」 

姫「なにが違うのよ!!」 

それに対し、姫も同じくらいの大声で返す。

老婆と王はどうすれば良いかもわからず、ただ2人の会話を某然と聞く。 

姫「いつまで甘えてんのよ!人まで殺しといて、ふざけんじゃないわ!!」 

男以上の迫力で姫は叫ぶ。 
もはや、どちらが剣先を向けられているかわかったものではない。 

男「うるさい!」 

男はそれに対し、子供のように反論する他なかった。

姫「あんた、執事が死ぬ寸前なんて言ったか想像つく!?」 

そんな様子を見ながら、姫は目を潤ませ、叫ぶ。 

姫「執事は……執事は最後まであんたのことを気遣っていたのよ!」 

涙がこぼれる。 
しかし、それでも男は子供のように言葉を返す。 

男「黙れ!」 

剣先を喉元に強く食い込ませる。 
姫のがその圧に耐えきれずプチンと切れ、肌から血が流れ出す。

姫「……ッ!」 

王「ひ、姫……!」 

王が近寄ろうとする。 
しかし、それを老婆が声をあげて止めた。

老婆「ぬぅ……近づくんじゃないわい!」 

そんな中、姫は言葉を男に続ける。 
痛みを堪えながら声をあげる。

姫「執事は、ね。死ぬ直前……」 

男「やめろ!!」 

男の声が一層大きくなる。 
しかし、話は止まらない。 

姫「あんたみたいな男を、王子を、怒らないでと言ったのよ!!」 

男「うるさい!黙れ!」 

男の剣にまた力が加わっていった。

王と老婆は焦る。
大切な娘、大切な人質なのだ。 

王「や、やめるのだ!」 

老婆「やめるのじゃ!」

そんな心配をよそに姫は続ける。

姫「少しは執事の気持ちを汲み取りなさい!!」 

男「う、うるさい!!」 

この期に及んでも、男は否定し続けた。
そして、剣を少し、くびをはねるかのような動作をみせた。


今までにない大声で叫ぶ。 

男「もう、黙れ……!!」 

その言葉に対し、間をおかず姫は叫んだ。 

姫「やれるなら、やってみなさい!!」 

老婆と王が何かを大声で訴えるが、男の耳にも姫の耳にも、入らない。 

王「や、やめろ!!」 

王が叫ぶ。 

老婆「ひ、人質じゃぞ!!」 

老婆が止める。 


姫は死を覚悟した。 
やれることはやった。 
勇気を振り絞った。 

ぎゅっと目を瞑る。 


10秒…20秒…時がすぎる。 





……しかし、剣が振るわれるこはことはなかった。

カランカラン…

金属の落ちる音。

姫「……」 

姫がゆっくりと瞼を開ける。 

振り返る。 

崩れこんでいる、男。 

地面に落ちる剣。 

嗚咽が聞こえた。 

男は独り言のように言う。

男「俺が…間違っていたというのか?」 

姫「そうよ」 

男「執事はこんな俺を思っていたのか?」 

姫「そうよ」 


男「……こんな姿の俺を受け入れてくれたのか?」 

姫「……当たり前じゃない」 

男「……すまなかった」 

姫「……謝って済む状況じゃないわよ」 

男「……」 

姫「けど、あなたの負けよ」 

そう言った姫は老婆を見据える。 
そんな様子を見た王が哀しそうに声をあげた。

王「……お主は辛い思いをしたのだろうが、これは間違っておる」 

老婆はなにも言わない。 

姫「負けを認めなさい!」 

姫は老婆を睨みつける。 
老婆は答えない。 

老婆「……」 

男は立ち上がり、老婆に語りかけた。 
静かな落ち着いた声。

男「……感謝はしている。だが、お前もこの町に償わせたかっただけなんじゃないのか?」 

老婆「わしの負け……?」 

そんな老婆は男の質問には答えず、質問を質問で返した。

そんな老婆の質問。 

男「そうだ。2人で罪を……」 

答えようとする男。 

その話す途中で男の顔色が明らかに悪くなる。 
次の瞬間。 



男「ゴホッ……!」 

口から大量の血が飛び出した。



姫「お、王子!?」 

姫が驚き名前を呼ぶ。 

王「き、貴様、何をした!!」 

王が老婆を睨みつけ、怒りのこもる声で叫んだ。

老婆が突然、不気味に笑い出した。 

老婆「ふぁっふぁっふぁっふぁっ!お前など信じておるものか!!」 

倒れこむ男へ吐き捨てる言葉。

姫「ふ、ふざけないで!」 

王子を床に寝かせた姫が鋭い目つきを老婆に向ける。 

老婆「おお……怖いのう」 

老婆はそれにも動じない。 

姫「あんたいい加減に…!」 

鋭い目つきをむけたまま、立ち上がり老婆のもとへと向かおうとする。 
しかし、そんな姫を老婆は静止させる。 

老婆「おっと、近づくんじゃない!忘れたのかのう……今、この町がパニックになっているということを!」 

王「貴様……!」 

王の怒りのこもった声が響いた。 

老婆「あれの解毒剤はわししか持っておらぬ。それでも、良いのかのう……?」 

卑劣な言葉。

姫「あんた、どこまでも最低ね……」 

老婆「どうとでもいえばいいわい。わしの勝ちじゃ!」 

その老婆の宣言を誰も覆すことはできない。
威勢よく今まで話していた姫もとうとう黙り込んだ。

もうどうしようもない。 
2人がそう思いかけていた。



もう一つの声が聞こえるまで。 

男「……信じてなかったのは、お互い様のようだな……」 

男がフラフラと立ち上がっていた。

全員の視線が男へと集まった。
老婆が静かに問う。 

老婆「……どういう意味じゃ?」 

男「……こういう意味だよ」 

そう言うと、ポケットから小さなカプセルを取り出した。

男「……なんだか……わかるか?」 

老婆の顔面が蒼白になって行く。

老婆「お、お前どこでそれを!!」 

男「ふ、ふふ…ちょっと、な……悪いな」 

それは町中に出回った毒の解毒剤。 

男「……お前の負けだよ、諦めろ」 

男は最後の力を振り絞り言うと、フラフラと倒れこむ。 

姫「お、王子!」 

姫が倒れた王子に駆け寄る。
背後では老婆が小さく呟く。

老婆「な、なぜじゃ…なぜ……」 

なぜ、なぜ、と何度も、何度も呟く。 

王「……貴様の負けのようだな」 

王が静かに言うと近づき、老婆を見下ろす。
そんな王に対し、老婆は無抵抗に捕まっていた。 

何十年も夢見た瞬間が目の前で崩れ落ちた。 
老婆にとっては、何もかもが真っ暗になったのと変わりなかった。 

王「王子は任せる……」 

老婆を引っ張り、扉をあけ外に出て行く。

部屋に残されたのは、王子と姫。


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