望み


男「少しでも変な気を起こせば、お前の娘の命はないからな」

突然部屋に入って来た化け物はそう言い放った。

血まみれの体に、血まみれの剣。 
そして、首を捕まえ剣先を向けられているのはこの国の姫様。 

王「き、貴様……!」 

王はすぐに察しがついた。 
執事を殺した、化け物。 
人間の形をしていながら、体が腐り落ちなお、生きる化け物。 

つかまれた姫は力なく、ダランと立つ。
首を捕まれながら立っているのがやっと、という様子だった。

王「貴様、我が娘になにを……!」 

王が怒りを現わに話す。 

男「何もしてないさ。ただ、少し昔話をしただけだ」 

男のあまりに軽い話し方が王の怒りを大きくさせた。 

王「貴様……」 

男「おっと、動くなよ」 

そういった、男はにこりと笑いながら王をみる。 
とてつもない怒りを覚えながらも、それをぐっと堪え問う。

王「……なにが望みだ」 

男「そうだな、望みはあるけど、俺一人じゃ意味が……」 

コンコン 

そんな男の話の途中で扉がノックされた。 

男「……おっと、丁度いい、兵士に町中にいるフードを被る不審な老婆を探させろ」 

男のわけのわからない望みに王は聞き返した。 

王「……どういうつもりだ?」 

しかし、そんな王を無視し、男は続けた。 

男「そうだな……町中のパニックの原因を作った奴だ、とでも言って探させろ」 

そう、早口で言うとぴくりとも動かない姫を引っ張り、物陰に隠れた。 
王はその指示に従う他無い。

王「……入れ」 

そう王がつげると、扉が勢いよく開かれた。 
飛び込むように入ってきた兵士が早口で話す。 

兵士「お、王!町での被害が拡大し続けております。なにか、ご指示を……!」 

娘が人質に取られていては、王もなにも抗うことはできない。 
男の言われた通りの指示をする。 

王「……町中のフードを被った、不審な老婆を探せ、そやつがこのパニックの原因を握っている」 

兵士「……は?」 

王の突拍子のない指示に兵士はつい、聞き返す。 
しかし、有無の言わさない王の大きな声が次の瞬間、兵士の耳に飛んだ。 

王「早くしろ!町中の不審な老婆を探すのだ!!」 

兵士「は、はっ!皆に伝え、不審な老婆を探し出します!」 

兵士は驚いたように返事をし、急いで部屋を出て行った。 
扉が閉まると、王は向きも変えずに言った。 

王「……これでよいのか?」 



「もちろん」 



まだやることはあるけどなと、男の声が物陰から聞こえた。 


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