企み
カラン…
カラン…
森の中、何かが引きずられる音が聞こえた。
老婆「どうじゃ?通い詰めた成果はあったかの?」
1人ぽつりと大木によりかかり座る者に話しかけた。
ただ、返事は返ってこない。
老婆は気にせず、話を続ける。
老婆「あそこはそういうところじゃ。罪なき者が無意味に傷つけられる」
フード男「……」
老婆「自分を責める必要はない。お前はやるべきことをやっただけじゃよ」
静かに男の行動を肯定する。
その言葉をきき、男がぽつりと呟く。
フード男「あんたが……正しかったよ」
その言葉は悲しさと怒りとが混ざり合うもの。
老婆「お前は悲しむ必要など無いんじゃよ。むしろ、喜ばしいこと、あやつらの本性に気づけてのう」
老婆が目を細め、昔のことを思い出すように話す。
老婆「姿形だけで、人を判断し町から追い出す」
怒りがこもった声だった。
老婆「わしなら、お前の姿など怖くも無い。『それ』の進行も遅らせられる。共に戦おうじゃないか、若者よ」
その言葉に化け物の姿となった男はすぐには返事はしなかった。
数十秒、考え込む。
静かに口を開く。
フード男「……何をすればいい?」
男は下を向き、虚ろな声。
しかし、しっかりとした意思が伝わる声で言った。
老婆「ようやく、おまえさんもその気になってくれたか」
何をすべきかははっきりしている、と老婆は言う。
老婆「ただ、お前さんは本当にあそこを捨てるという約束はできるかのう……?」
この言葉に先程とは全く違う。
すぐに男が返事をした。
男「勿論だ、手を貸そう」
上を向き、眼は虚ろながらもはっきりと、老婆を見上げながらそう言った。
そして、男は言葉を続ける。
男「ただ、これだけ教えてくれ」
男「あんたは何者なんだ?」
その質問に老婆はすぐに返答しなかった。
老婆「何者…何者じゃろうなぁ……」
暗い森の木の葉の天井を見上げる老婆。
懐かしむような、そんな雰囲気を漂わせていた。
老婆「もう忘れてしまった」
そんな老婆が悲しそうに言った。
今までほとんどが憎しみだらけだった言葉に、悲しみがこもっていた。
老婆「ただ、あえていうなら」
老婆は続ける。
老婆「……お前と同じ、『化け物』じゃよ」
悲しみと怒りが混じる声で。
そう言った。
老婆の杖は腰にくくりつけられている。
腕があるべき場所には、なにも生えていない。
老婆は両腕が腐り落ち、全身がゾンビのような姿になり、なお生きる、化け物そのものだった。
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