前に


カチッカチッカチッ 

時計の音だけが、部屋に静かに響き渡る。 
執事の死を自分の父親である、王に伝えた。 

その後、どうなったか自分でもあまり覚えていない。 
泣きじゃくる自分を気遣ってくれた父がこの時計と机、椅子だけが置かれた部屋に移動させてくれた。 

きっと、あの人も辛いはずなのに。 
王という立場ゆえ、気然とした態度で振舞った。 

姫は自分を責めた。 
あの化け物をこの城に誘い込んだのは、自分自身なのだ。 

そうでもなければ、きっと誰も傷つかずに。 
執事も死なずにすんだだろうと。 

時計の振り子の音だけが部屋に響く。 
執事が死んでから何時間立ったのだろうか。 

時計の針はすでに午前5時をさしている。 

時間はゆっくりと進む。 
外がほのかに明るくなっていった。

王子が死のうが、時間は進んだ。
執事が死んだ今も、それは変わらない。 

執事のためにできるのはなんなのか。 
王子が死んだ時のように、何もせずただ、時間を潰すべきなのだろうか。 

自分を庇いながら死んだ王子のときのように。 

今回もまた、それを繰り返し助けを待つだけ? 

姫は自分に問いかける。 

執事はなんといった? 
最後のお願いはなんだった? 
ただ、自分の過ちを悔やむことを望んでいたのだろうか。 

彼は「前に進め」そういった。 
なにかにすがるのではなく、自分で前に。 

前に進まなくてはならない。 
2人もの優しい、愛する大切な人の思いを無下にしてはならない。 

王子のためにも、執事のためにも。 
そして、自分のため、父親のために。 

姫「頑張るしか、ないのかな」 

呟く。 

姫「……いや、頑張ろう。頑張るんだ」 

小さく強く呟く。 

姫は心に決める。 
「前に進む」と。 


大切な、大切な2人のためにも。 



外では鳥がないていた。 
なにが起きても、時間は変わりなく進むのだ。 
日が登り、鳥は鳴く。 

無駄にはできない。 


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