次代
【5年前-訓練決闘場】
姫「副団長がんばれー!」
決闘場の外から、姫が大声をあげる。
兵士団長「全く……まさか、姫に応援されない日がくるとは思いませんでしたよ」
団長がため息混じりにいった。
副団長「そうっすか?」
兵士団長「はぁ…わからぬものですね、本当に。私の立つ瀬がなくなってしまうじゃないですか」
そんな団長に向け、副団長と呼ばれた青年は言った。
副団長「大丈夫ですよ、彼女から言わせれば……おじいちゃんらしいですから」
兵士団長「お、おじいちゃん……?」
副団長「そうですよ、そろそろ若者の世代と交代しないと」
言い終わるとニコリと微笑む。
そして、なーんて、冗談ですよ、と言葉を続けた。
兵士団長「……はぁ、あなたはすっかり、生意気になりましたね」
男性はため息混じりの呆れ声でそういった。
副団長「クックックッ、今日はあなたを倒しますからね」
その呆れ声に副団長は笑いながら答えた。
兵士団長「ふふ……そうですね。約束はちゃんと果たしますよ、かかってきなさい」
団長の目が真剣なものにかわる。
二年前、彼を相手にしていたときには見せたこともないような目だった。
それだけ、彼が成長したということなのだろう。
副団長は剣に手をかけ一言。
副団長「いきますよ」
鞘から引き抜いた剣、次の瞬間には団長の前で振り下ろされていた。
素人目にはとても、目が追いつかない。
それほどのスピード。
キィン!
剣と剣がぶつかり合う。
激しい攻防の始まり。
一方が攻撃すればそれを避け、はじき反撃をする。
それを目まぐるしい早さで、繰り返す。
実力は明らかに拮抗していた。
動きだけなら、若い副団長が上かもしれないが、培われてきた経験。
その差で団長も上手く戦う。
しかし、いつまでもその拮抗した戦いが続くことはなかった。
兵士団長(……あなたの癖は相変わらずですね)
そんなことを心の中で思い、団長はつぎなる攻撃を予想して、踏み込む。
まだまだ実力不足、そう思った。
兵士団長(!?)
しかし、予想に反した動きを副団長はみせる。
踏み込んだその先、喉元に剣が向けられていた。
副団長が静かに言った。
副団長「ぼくの勝ちですね」
兵士団長「……わざとですか?」
副団長「ふふ、なんのことですか?」
その質問に対して、副団長は笑ってごまかす。
兵士団長「……はぁ、あなたには負けましたよ、一本取られました」
団長は、諦めたようにそう言った。
癖がなおらないなら、いっそそれを不意打ちに使ってしまうというなんとも単純な発想。
いつもの癖の動作をわざと真似し、別の動きを仕掛けられた。
兵士団長(いつでも通用するようなことでもないんですけどね……)
そう思ったのと同時に、自分の年を思い知った。
あの程度の不意打ち、昔なら引っかかりするようなものではなかった。
兵士団長「約束……ですね」
こちらを見る若者へ向けて言う。
自分が育てた、次なる兵士団長。
兵士団長「これをもって、私は団長を辞任」
この瞬間を待ち望んでいた。
ただ、少しだけ悔しい。
弟子に越えられる、ということ。
兵士団長「次なる兵士団長に貴殿を任命する!」
威厳をもち、団長として最後の仕事を果たす。
姫「やった!やったあ!」
遠くで姫が飛び跳ね喜ぶ。
それに微笑みながら、手を振り返す副団長……団長。
元団長となった男は青年が言った言葉のように世代交代を感じた。
しかし、悔しい気持ちや、悲しいものは意外にも薄れていった。
心から彼らにこの国を任せられる。
そう思った。
もう、自分が出るまでもなく、2人でどんな苦難も乗り越えてくれるであろう、と。
駆け寄ってきた、姫と話す青年にむけて。
楽しそうに青年を祝う姫に向けて。
2人に向けて小さく呟く。
元団長「……応援してますよ、いつまでも」
元団長の顔は穏やかな笑顔だった。
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