未来
【王城】
執事「ひ、姫……様」
執事が口から血を流しながら、姫を呼ぶ。
どう見ても、助かりそうにない。
姫「や、やめて!話さなくていいわ!すぐに兵士たちを……」
泣きながら必死にそう言う姫を、手で静止させ執事が話す。
執事「私はもう、長くないですよ。ゴフッ……ひ、姫様にも分かるでしょう?」
しかし、執事はゆっくり、ゆっくりと言葉を続ける。
執事「最後くらい、私のそばにいてください」
姫「いやよ、嫌!あなたはまだ、やることがいっぱい……」
姫は現実を受け入れきれない。
大粒の涙を流しながら、執事の横に座り込む。
執事「姫……私から最後に大事な話があります、お願いです。聞いてください……」
しかし、執事は言葉を振り絞る。
姫「……」
姫は返事もできず、黙り込む。
最後というのを受け入れきれないが、話を聞かないわけにもいかなかった。
そんな姿を見て、執事は笑った。
執事「ふふ…姫。い、いつまでも…子供ではいけませんよ」
言葉を続ける。
執事「私たちは前に…前に進まなければなりませぬ。それを、どうか……どうか、分かってください」
執事の話は続く。
姫「……」
涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらも、姫はどうにか頷く。
執事「ふふ、お願いしますね」
そんな姫を見て、執事はまた笑った。
執事「そ、それと、もう一つだけ…ゴフッ…。お願いがあります」
しかし、執事の様子は明らかに死に近づくものだった。
姫「な、なによ……」
執事「王子を…王子をどうか怒らないでやってください」
姫「ど、どういう意味……?」
姫には意味がわからない。
もういない人間、怒りたくても怒れない。
しかし、そんな姫を無視して執事は続ける。
執事「か、彼は…無鉄砲で馬鹿で、学習しないやつでしたが……それでも、私の大事な教え子です」
姫「し、執事……?」
執事「そして、あ、あなたの大事な、大切な人です。どうか、やつを怒らないで、迎え入れてやってください……」
姫にはさっぱりなんの話だかわからない。
執事はそれでも良いと思っているのか、話続ける。
執事「わ、私は彼に申し訳のないことを……してしまったようですから。グッ…監視なんてするべきじゃなかったようですね……」
姫「な、なによ!どういう意味よ!」
泣きながら叫ぶ。
その言葉に執事はやっと反応をみせる。
いつも鋭かったはずの眼は虚ろに。
唇も動かなくなり、急に何歳も老けたような顔だった。
執事「そのうち、わかり…ゴボッ…」
話している途中に大量の血が口から飛びだした。
それでも、なお、話すのをやめない。
執事「や、やつを頼みましたよ……姫」
執事は微笑んだ。
そして、二度とその口から言葉が発せられることはなかった。
姫「し、執事…?」
姫は呼びかける。
姫「執事…!やめて!いかないで!!」
何度も、何度も。
しかし、その男は微笑んだ顔のまま動くことはない。
化け物が……フードの男が何者なのか。
わかっていながら、伝えなかったのは執事の優しさなのか。
それともただの、エゴなのか。
ただ、彼が最後まで思い続けたのは若い2人の未来。
明るい、未来。
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