出会い



【7年前-王城の庭】 

カキィィィン… …

剣が弾かれる音が王城に響いた。 

兵士団長「はぁ……本当にに君はその癖だけは治りませんね」 

団長が呆れたようにそう言った。
相手をする青年は苦笑いでそれに答える。 

兵士団長「全く、そういうのが命取りとなるんですよ?」 

青年「わかってますよー」 

青年の返事は抜けたような声で耳に届く。 

兵士団長「……わかりました、休憩にしましょう」 

兵士団長はすっかり呆れた声で返した。

2年前から兵士団長のもと様々な訓練を受けた少年はすっかり、身も心も大きくなっていた。 
技術も比べ物にならないほどに、高く。

しかし、隙にもなってしまうその癖だけは、一向に直らない。 

青年「あーあ、なんでだろうなー」 

別に青年は直す気が無い訳でもない。 
大きな隙になり得ることもわかっていたし、危険になりうることもわかっている。 

ただ、こればかりはなぜか才能溢れる彼もお手上げだった。 

青年「はぁ…」 

ため息をつきながら、庭にあるベンチに座った。 
気分転換にと王城の庭で訓練を受けさせてもらったが、結局直らずじまい。 
しまいには、団長に呆れられてしまった。 

そんな、柄にもなく落ち込むんでいた青年の背後から声がかかった。 

姫「あら、どちらさま?」 

振り返るとそこには、綺麗な顔立ちの少女。

青年「ひ、姫様?」 

驚いた青年は、座っていたベンチから立ち上がり、そちらの方向へ向いた。 
さすがに、何年か前の頃のような無邪気さはない。 

姫「ふふ、そんな驚かなくてもいいじゃない。ここは王城よ?いても不思議じゃないでしょう」 

青年「…そうですね」 

普段は護衛に兵士がついているはずだ。 
それがいないということは、お転婆だと聞く姫様のことだろう。
きっと、勝手に出回っているのではないか、と頭の中で考えを巡らせる。

姫「ふーん、あなた顔はかっこいいわね。いいわ、何か話をして頂戴?」 

そんなことを思っていると、姫が突然そんなことを言い出した。
若い兵士、というのが珍しかったのか
それとも、顔が気に入られたからなのか。

ただ、話となれば青年の得意分野。 
なにかとっておきの面白い話を頭の引き出しから取り出す。 

青年「……では、黄金の都の話なんてどうでしょう?」 

姫「うん。いいわよ、続けなさい」 

きっと、護衛の兵士が王城内を必死で探し回っているのだろう。
ここは話のひとつでもして、足止めささておくのは悪い手ではない。 
そんなのとを思いつつ、青年は話し始めた。 

姫「うんうん!それで!?」 

しかし、ただの足止めのつもりで、話し始めた青年も姫がとても楽しそうに聞くので、一緒に楽しくなっていた。 

青年「……おしまーい」 

最後にそう話を締め、姫の方へ顔を向き直し、ニコリと笑った。 

姫「あ……。な、なかなか面白い話だったわ!」 

なぜか、少し慌てたように答える。 
男性経験のない姫には、こんなにも楽しい話をしてくれる美形の青年という存在は刺激が強すぎたようだ。 

姫「あ……やばい。見つかった」 

それもつかの間、顔色を変えた姫から言葉が漏れる。
青年が振り返ることそこには、こちらに走って向かってくる兵士団長の姿が見えた。 

兵士団長「ひ、姫様ー!」 

兵士団長「はぁはぁ……。ひ、姫様……どこにいかれたかと思いましたよ」 

姫「ちぇー、せっかく逃げれたのになー」 

ふくれっ面でそう言う。 
先ほどまでの上品な姫はどこに行ってしまったのか。 

兵士団長「ふー…。なんで、姫様がここに?」 

ふくれっ面をしている姫に変わって、青年が答えた。 

青年「ああ、いや、たまたまここに姫様がいらっしゃって……。ちょっとばかり、話を」 

兵士団長「話?」 

青年「僕のとっておきの話ですよ」 

ああ、といって兵士団長は頷いた。 
団長も一度はきいたことがあるようだ。 

青年「まあ、見つかってよかったですね」 

そんなことを言う、青年。 

団長「そうですね。では姫、お部屋に……」 

そんな話をし終え、姫の方へ顔を向ける団長。
しかし、そこにいたはずの姫が、いない。 
たしかに青年の後ろのベンチに座っていたはずだ。 

座っていたはずなのに。

兵士団長「ひ、姫様……」 

どうやら、また逃げられてしまったようだ。 
団長はあんぐりと口を開けたまま、疲れきった表情を見せる。 

青年「クックック……」 

そんな団長の疲れきった顔に青年は笑いを堪えることができない。 

青年「だ、団長、庭での訓練、定期的にやりません?」 

青年は笑いながら、そう提案した。 

兵士団長「……はぁ」 


……団長の苦労は絶えない。 


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