罪の姿



・・・・・・体中が痛い。
殺さないまでも、強気なカブトムシは俺のいたるところに攻撃した。
これでは元の体に戻るどころではない。
まず、体を直さないとまともに動くことさえままならないだろう。


G「うう・・・・・・」


しかし、体を直すにも行く当てがない。
俺は今、独りぼっちなのだ。

どうしようもないこの状況。
誰でもいいから救ってほしかった。
そんなときに頭上から俺に声がかかった。


ゴキ神様「ゴキブリよ」

G「だ、誰だ・・・・・・」


驚いた。
急に頭上から声がするのだ。
上を向いたものの、飛んでいる者はおらず、姿かたちもない。


ゴキ神様「我はゴキブリ界の神だ」


何を阿呆なことを言ってるいるのだろう。
姿かたちが見えないだけでそんなことを言って、俺をからかおうとしているのだろうか?
こんなときに助けもしないで、からかうことしか考えられないやつだと思い、声を荒げながら言った。


G「何が神だ! ふざけるな」

ゴキ神様「ほう、そんな言葉遣いをするでない。 そんなだから、ゴキブリにされてしまうのだ」

G「・・・・・・」


一瞬俺の思考が止まった。
こいつは本当に神なのかと、信じてしまいそうになった。
なぜ、俺がゴキブリの姿に変わったとわかるのだろう。
そう思い、聞こうとするとまたも先手を取られた。


ゴキ神様「お前の今の姿は罪だ」

G「何が・・・・・・」

ゴキ神様「お前は昨日、一日何をした?」


神が俺の言葉を覆うように言った。
何って・・・・・・何もしていないだろう。
少し非日常的なことが少しばかり起こったくらいだ。


ゴキ神様「自らの罪にさえ気づけないのか・・・・・・」


呆れたものだ。
そう神は呟き、少し間を置いて言葉を続けた。
俺が何を言おうと無視されそうなので、俺は黙ってその言葉を聴いた。
否、体が動かない今、聞くしかなかった。


ゴキ神様「お前は食べ物を粗末に扱い、仲間を見捨て、罪のない者を侮辱した」


それがどうした。
そう口答えしそうになってやめた。
この辺りで俺は本当に神ではないのかと、思い始めていたからだ。
俺が無言のままでいると、それを確認して神は言葉を続ける。


ゴキ神様「理解したか? お前がゴキブリになるに十分な理由だ」


まさか、それだけで・・・・・・。
思いかけたが、ここと俺はようやく悟った。
自分が何をしたのか。
俺が今日一日受けてきたことは、自分でやっていたことではなかろうか?

食べ物を粗末に扱い、仲間を見捨て、罪のない者を侮辱した。
俺はことの重さに気づいたのだ。
馬鹿なものだ、こんな姿になってもわからず、ようやく今理解したのだ。


ゴキ神様「ようやく気づいたか。 だが、もう遅い。 せいぜい頑張るのだ・・・・・・」


そう言った神はこの場から去るように感じ取れた。
どうにか呼び止めなければ。
これでは一生ゴキブリの姿のままだ。
俺は確かに罪を犯した。
しかし、償うことはできないのだろうか?


G「ま、待ってくれ!」

ゴキ神様「・・・・・・」

G「お、俺に償うチャンスを与えてくれ! 最初で最後でいい、お願いだ」


俺は今の体のまま声の限りを尽くし、神に語りかけた。
神はその場にいたのか、もう帰ったのかそれすらもわからないまま、返事を待つ。
これでもし、否と答えられれば俺は一生この姿のまま。
下手をすると、この場で肉片になり朽ち果てるのかもしれない。


ゴキ神様「・・・・・・良いだろう」


神が先ほどのように不意に言った。
良いだろう、それは償いのチャンスを与えてくれる、そういう意味の言葉だった。
どうやら俺は首の皮一枚だけ、繋がっていた様だ。


ゴキ神様「ゴキブリの長老に会いに行くのだ。 そして、全てを話せ」


それだけ言うと、神はどこかに消え去ったようだった。
俺の体はいつの間にか動けるまでに、回復していた。
神がやったのだろうか?

この時点で完全に俺は神だと信じきっていた。
そして、言われた通り、ゴキブリの長老に会いに行くことにした。
もうあそこにいる、ニンゲンには会いたくはないのだが、神の言葉なら仕方ない。

恐らく長老とはあの最初の暗闇の中にいた、あの老いたゴキブリのことだろう。
俺はそう確信して、あの場所に戻るために走り出した。


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