「うーん、うぅぅ、んっ!」 「………」 「ん、ン!もうちょ、っと……!」 「………」 「ふっ!ん……!!」 「………何をしているのですか」 「うひゃあボス?!いつからいたんですか!」 両膝を床につき、這いつくばるようにキャビネットの下へ手を伸ばしていたナマエが漸くこちらを振り返る。 余程驚いたのか僅かに顔を赤らめた姿がまた滑稽でした。 「お前がだらしなくアンアン喘いでいた辺りからでしょうか」 「だっ…!誰がいつ喘ぎましたか!!私はただ落っことしたペンを取ろうとしてるだけです!」 「……ほう」 まあそんなことだろうとは思いましたが。 プンプンと言わんばかりに目を吊り上げて、ワタクシからぷいと顔を背けたナマエが再びキャビネットの奥に腕を伸ばす。 ……わかっていてやっているのでしょうか。いや、このおバカのことですから確実にわかっていないのでしょうが。 膝を立てたまま上半身を床に這わせて腕を伸ばせば、人体の構造上、自然と腰は上がるもの。 そう、つまり。今のナマエは非常に愉快な姿をワタクシに曝け出しているわけでございます。 「んー……!」 「………」 フム。タイトスカートから覗くなかなかの眺め。ブラボーと称しても良いでしょう。 それになんだか、ムラムラ――もとい、ゾクゾクして参りました。 静かに、足音と気配を殺して、依然としてワタクシに向かって高く腰を上げたままのナマエに近寄り、ゆっくりと掌を振りかぶる。 バシッ! 「ぎゃん?!!」 振りかぶった掌で狙ったナマエの臀部を引っ叩いた瞬間、破裂音に似た鈍い音が鳴るのと同時にナマエが間抜けな悲鳴を上げました。 「ぼぼぼっ、ボス?!なにを……!」 「……やはり布越しだと音がイマイチですね」 「いやいやいや!そうじゃないでしょう!」 「ああ。ついでに言わせて頂ければ、お前の悲鳴もイマイチです。もっと色気のある声を出しなさい」 「言うに事欠いて?!」 「つべこべ言わずにスカートと下着を脱ぎなさい。リテイクです」 「いやです絶対イヤですこれ以上のセクハラは許さない!!」 「誰もお前の許可なぞ必要としておりませんので心配ご無用。それとも脱がされたいのですか?」 「ジュンサーさぁあん!!」 「ウルサイですね」 バシッ!! 「ひきゃっ!!」 先程よりも少し強めに張ってやれば、今度は甲高い悲鳴が上がりました。 ――今のはなかなか悪くない。やはり音はイマイチですが。 プルプルと震えながらワタクシを振り向いたナマエと目が合ったので、極上のスマイルで舌なめずり。 真っ赤だったナマエの顔が真っ青に変わりました。変なところで器用なことです。 「――お望み通り、脱がせて差し上げましょうか」 「ひっ、ゃ…!やですいや…っやだ!」 「オヤオヤ。そんなに震えてどうしました。寒いのですか?」 『カワイソウに』 口先だけで慰めて、ナマエが逃げられないよう背後から覆い被されば腕の中の小さな身体がビクリと跳ねる。 まったくお前はワタクシを煽ることにおいては誰よりも達者なのですから、それがまた小憎らしい。 構いすぎて壊してしまっても、それは最早ワタクシの責任ではないでしょう? 「ぼ、っ…ボス、あの……っ!」 「――『インゴ』、と」 「ッッ、インゴ、さん……!えと、その…!さ、さっきから、ぉ、おしり……あ、あたって…ッ!」 「おや、何か当たっておりましたか?」 白々しくうそぶいて、更に腰を押し付ければナマエが声にならない悲鳴を上げて俯く。 グリグリと遠慮なく、狙いをつけて下着越しの秘裂に熱を持った股間を宛がい、戯れに腰を揺らせばキャビネットとワタクシに挟まれて逃げ場のないナマエはいよいよ、今にも泣き出しそうに肩を震わせ始めました。 ああ、これだから止められない。 「ナマエ…何が当たっているか、言って御覧なさい」 「ぃ、嫌です…っ!」 「見事正解しましたらご褒美を差し上げましょう」 「いらないです!」 つれないことを言う。憎らしい口は塞いでしまいましょうか。 不本意ながら口角がエメットのように吊り上るのを抑えきれないまま、伸ばした腕でナマエの顎を捕らえ、強引にこちらを振り向かせる。 息を呑んで涙ぐむ揺れる瞳がワタクシを映し、親指に微かに触れた震える吐息はジンとした痺れをもたらした。 (――ああ、) 全て、お前の所為です。 お前の言動が――お前の存在が招いた事態なのですから、責任を取らせるのは当然。 そろそろ思い知らせて差し上げるのがナマエのためと言うものでしょう。部下思いのワタクシに感謝なさい。 「ナマエ――」 「ッ、イン ゴさ……っ!」 『ボス、シングルトレインに挑戦者です!待機お願いします』 「――Shit.」 「!!!」 バッドタイミングでインカムに入った通信に舌打ちするのも仕方のないこと。 なんと空気の読めない挑戦者なのでしょう。速攻でストレート勝ちして生まれたことまで後悔させてやりましょうか。
ああ、ああ、興醒めです。 あからさまにほっと息をついたナマエが憎らしくて堪りません。この生娘め。覚えておきなさい。 お前が泣いてワタクシを欲しがるようになる日も近いでしょう。 「……ナマエ、お前に一つ良いことを教えて差し上げましょう」 「なっ、な…なんです、か……?」 ホームに向かうためナマエの上から退き、コートを直しながら振り向けばキャビネットに背中を預けたナマエが警戒心を覗かせた瞳でビクビクとワタクシを見つめ返す。 そんな怯えた姿に、ほんの少し気分が浮上したのは言うまでもございませんか。 「――手が届かないのなら、定規でも使いなさい」 「!!〜〜〜っは、早く言ってくださいよッ!!」 まさか本気で気づいていなかったとは。 カッと頬を染めて喚いたナマエに背を向け、込み上げてきた笑いを殺しながらドアノブに手をかける。 これだからお前は退屈しない。 愚かで可愛い、ワタクシの玩具。 「――では、先程の続きは後ほど改めて」 「!!!つ、ッ」 『続きなんて、ありませんからね?!』 そんな、期待した顔で言われてしまえば部下思いのワタクシが応えないわけにはいかないでしょう。 ワタクシも随分と甘くなったものです。 (12.01.31)
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