ポケモン | ナノ

(時系列曖昧/完結前/やや破廉恥)

「あー、あっつー!」

首にタオルをひっかけ、リビングを横切ったナマエ様の姿に毎度のことながらドキリとする。
飾り気のないタンクトップにショートパンツ。
そこから覗く細い腕や触れればひどく心地よさそうな太腿は、湯上りのためほんのりと赤く色づき、いやがおうにも視線を奪われる。
おまけにふわりと鼻孔をくすぐったボディーソープの香りは、わたくしやクダリと同じものを使っているはずなのに、それを纏うのがナマエ様だとこうも甘く感じられるから不思議なものです。
そんなことを考えつつ、雑誌を読むふりをしながら目で追いかけていると、一直線に冷蔵庫に向かったナマエ様がその中を覗き込んで、「あ、」と小さく声を上げたのが聞こえました。

「モーモーミルク切れてる……」

……ああ、そう言えば。今日帰りがけに買って帰るつもりが、うっかりしておりました。
しかしナマエ様は風呂上りはスポーツドリンク派だったはず。
朝食に使う予定もございませんので、また明日にでも買ってくれば支障はないでしょう。
そう思った時、スポーツドリンクをゴクゴクと景気よく飲み干したナマエ様が不意にこちらを振り向いて、とんでもないことを言い出しました。

「ノボリさん、俺、ちょっとそこのコンビニまで行ってきます」
「、は?」

今、何と。

わたくしが聞き返す前にナマエ様は首からタオルを外し、鞄から取り出した小銭入れをポケットに突っ込んでパタパタと玄関へ走り出す。もちろん、タンクトップにショートパンツ姿のまま。
思わず出遅れましたが、固まっている場合ではございません。
わたくしはハッと息を飲んで、慌ててナマエ様を追いかけました。

「ッナマエ様!!お待ちくださいまし!」
「え?あ、ついでに何か買ってくるものあります?」
「そうではございません!!」

何を、考えているのですか!!
怒鳴りたい気持ちを抑え、サンダルに片足を入れようとするナマエ様の腕を掴んで待ったをかける。
まだ寝るには早い時間とは言え、外は既に真っ暗闇。
そんな時間に、こんな軽装で出かけようだなどと、わたくし絶対に許しません!!

「モーモーミルクでしたら明日わたくしが買って参りますので!」
「や、でもクダリさんお風呂上りにあれないとダダこねますし」

なんと、蓋を開けてみればクダリの為だとおっしゃる。
確かに昔からの習慣で、クダリは風呂上りにあれがなければ大層不機嫌になりますが、それが理由だと仰るのでしたらわたくし、ますます行かせるわけにはいきません。
と申しますか、本当に、ナマエ様にはそろそろ色々と自覚していただかなければ、いつか取り返しのつかないことになってしまう。わたくしはそれが恐ろしくて堪らないのです。

「ッ…よろしいですか、ナマエ様。いつも申し上げておりますように、不本意でしょうがあなた様は今、女性の身体になっているのです」
「……それは、わかってますってば」
「いえ、ナマエ様は理解していらっしゃいません」

拗ねたように唇を尖らせて視線を逃がすナマエ様にピシャリと言えば、癇に障ったのでしょうか、眉間に眉を寄せ何か言いたげにこちらを睨む。
ほら、御覧なさい。そんな表情でさえ扇情的だと言うことを、あなた様はちっとも理解していないではないですか。

「うら若い女性が、こんな時間にその様な服装で出歩けば、いつ不逞の輩の目に留まってもおかしくはないのですよ」
「……別に俺、中身男だし、平気です」

わたくしが!!嫌なのです!!!

そう声を荒げることがきたならどれだけ良かったか。
しかしながら今のわたくし達の関係ではそのような主張を押しつけることもできず、歯痒さと、言うことを聞いてくださらない反抗的な態度のナマエ様に苛立ちが募る。
だと言うのに、そんなわたくしの内心も知らずトドメのこの言葉。


「自分の身くらい自分で守れます。それに、ほんとの『女の子』じゃないんだから、もし何かされたとしても気にしないですよ」


これにはさすがに、わたくしの堪忍袋の緒も捩じ切れました。

「――でしたら、ナマエ様」

掴んだままだった腕を捻り、こちらに背を向けたナマエ様の身体をドアに押しつけて拘束する。
何が起こったのかすぐには理解できなかったのか、動揺するナマエ様から「ぇ」と微かな声が漏れました。その油断した隙に、背後から膝を割り入れて脚を閉じられないよう身動きを封じると、ようやくこの状況を把握して息を飲んだナマエ様の身体が強張る。

「どうぞ。わたくしから逃れて証明してくださいまし」
「っ…!ちょっ、ノボリさ、」
「さぁお早く。暴漢は遠慮などしませんよ」
「ひ、!?やっ…ノボリさんっ!!」

ナマエ様の腕を掴むのとは反対の手をタンクトップの裾からするりと滑り込ませる。風呂上りの素肌は想像していたよりも瑞々しく、そしてこちらを誘うような熱を帯びていらっしゃいました。
抗議の悲鳴も無視し、掌全体でひたりと触れたまま徐々にそれを上へ滑らせていけばやがて指先が柔らかな感触に触れ、ナマエ様の肩が大袈裟なほど飛び跳ねる。
――ああ、そうではないかと思っておりましたがやはり、

「ブラジャーも、つけていないのですね」
「!!だっ、て…暑い、し……!」
「わざわざ暴漢に都合よくしてくださるとは、お優しいことで」
「〜〜〜っ!ぃ、いい加減にしないと、怒ります、よ!」
「どうぞご自由に。わたくしも勝手にさせて頂きますので」

少し痛い目を見なければ、あなた様はわかってくださらないでしょう。
心の中で自分を、この行為を正当化して、密かに喉を鳴らす。
掌に包み込んだ無防備なその膨らみはうっとりするほど柔らかくそして、わたくしの掌にしっとりと吸い付くように形を変えました。
ここが、ナマエ様の女性の部分。
初めて触れたその感触に、抑えようのないほど胸が高鳴り、わたくしの中の雄が凶暴な熱を持つ。
欲望が、鎌首をもたげる。

「の、ノボリさん…!嫌だ、やめて……!」

あれだけ啖呵を切っておきながら、実際に触れてみれば碌な抵抗もできず、ただ震えるばかりの愛しい人に、庇護欲と劣情が交互に込み上げせめぎ合いました。
しかしどこまでも欲望に忠実な指先が、捉えた胸の先端を柔く摘まんで追い打ちをかける。
ビクリと今度こそナマエ様の身体に緊張が走り、身をよじった拍子に膝が鈍い音を立ててドアにぶつかりました。

「やっ、だぁ!!!はなっ、離 せ…っ!触る、な!!」
「でしたらもっとしっかり抵抗してくださらないと。ココをこんな風にしておきながらその様に仰っても、相手は調子に乗るばかりですよ」
「ひぅ、く…!!」

芯をもったそこを、指先でノックするように軽く叩いて指摘して差し上げると、子供のように首を振って額をドアに押しつける。覗き込んだ俯く横顔は必死に声を殺そうと唇を噛みしめていて、ゾクゾクと込み上げるものに戦慄きました。
――もう、我慢できない。

「……ナマエ様、“コチラ”はどうなっているのでしょうね」
「ッ!?ゃ…っ!!」

またガタンと派手な音を立てて膝をぶつけたナマエ様の首筋に唇を落としつつ、タンクトップの下の、ショートパンツへ。殊更にゆっくり、繊細な下着の淵をなぞって、更に奥へ指を潜らせれば淡い茂みが頼りなく行く手を塞ぐ。
もはや隠しようもなく震えるナマエ様が、可哀想で、ひどく愛おしい。

「…ココを、ご自分で触ったことは……?」
「!!!なっ、そん、なの……っ」
「――ございませんか。それはそれは」

耳まで紅潮させて口籠る姿に笑みを抑えきれない。
ナマエ様ご自身でさえきちんと触れたことのない場所に、わたくしが……そう思うと、優越感と、支配欲が満たされていく。
ますます止まれなくなってしまったわたくしは、「やめて」とか細く懇願する声に聞こえないふりをして、それどころか、熱の解放を訴えてどくどくと脈打つ自身を意図的にナマエ様の臀部に押しつけながら、無垢な秘裂の筋に指を割り入れました。
その途端、微かに鼓膜を揺らした水音と、指先から伝わったぬるりとした感触に、自分を見失いそうなほどの悦びが押し寄せる。
『箍が外れる』という瞬間を、初めて体感いたしました。

「ね、ナマエ様。わかりますか?」
「ぃ、ゃ…っ」
「ココを、こんなに濡らして。こんなに感じやすくて、どうするおつもりなのですか?」
「っゃだ……!」
「『何かされても気にしない』などと、嘘ばかりではございませんか。そのように震えて、わたくしの手一つ振りほどけず、良いようにされて」
「ち、が…っちが、うぅ…!!」
「なにが『違う』ものですか」

ぷちゅ、くちゅ。
ナマエ様にしっかりと聞こえるように、わざと音を立てつつ滑らせて、その源へ。
誰も犯したことのない小さな入口を、指の腹でやさしく塞ぐ。
ああ、ああ。ここを、この場所を、このままわたくしのものにできたのなら。

「――ナマエ様、ほら、よろしいのですか?」
「っ……」
「指、入ってしまいますよ?」
「、っ……!」
「…………ナマエ様?」

指先をじりじりと、入口に浅く沈めながら問いかけた時、異変を感じました。
肩を細かく震わせたまま、俯いたナマエ様が一言も言葉を発しない。
それを不審に思い、もう一度ナマエ様のお顔を覗き込んだのと、赤い頬を一筋の涙が伝い落ちたのはほとんど同時でした。


「ッッ――!!?」


しまっ た。

強く噛み過ぎた唇に血を滲ませながら嗚咽を殺すナマエ様の頬に次々と新たな筋が伝い、透明な雫が顎先から零れ落ちていく。
その痛々しい姿に漸く我に返り、己の愚行を自覚いたしました。

いくらなんでも、これはやり過ぎた。
いえ、むしろわたくしは途中から目的など見失い、ただナマエ様に触れることに夢中になっていただけなのです。
首筋に残った生々しい鬱血の跡が、何より明白な証拠。頭から冷水を浴びたように血の気が引いていく。
わたくしは、わたくしはなんということを……!一番の暴漢は、わたくし自身ではございませんか!!

「ぁ、あ、の……っ、申し訳ございません、ナマエ様!!!」

捻って押さえつけていた腕を離し、もちろん不埒を働いたもう一方も素早くショートパンツの中から抜き取り、振り向かせたナマエ様の涙をせめて拭わせて頂こうと手を伸ばす。
が、それは寸前でナマエ様の手によって拒まれてしまいました。
いえ、そうされて当然だとはわかっているのですが、やはりズシンと胸に来るものが……

しかし、ショックと自己嫌悪に蒼褪めるわたくしの手を取ったまま、ナマエ様はぐいとそれを自分に引き寄せたではありませんか。
何をするのかと思いきや、もう片手で引っ張ったタンクトップの端を使い、自分の涙は後回しにして、ナマエ様から溢れたもので濡れたわたくしの指を執拗に拭う(…も、勿体ないなどとは、思っておりません!……その、少ししか!)

「――…ノボリさん、サイテー」
「う゛……!!」

暫くそうして指を拭われ、その言葉とともに解放される。
『サイテー』、『サイテー』、『最低』………
まさしく効果は抜群。わたくしの心は瀕死状態でございます。
膝から崩れ落ちそうなのをどうにか耐え、縋るような気持ちで俯いたままのナマエ様を窺う。
既に涙は止まっているようですが、鼻を啜る音にはその名残が濃く残っておりました。

「っ…でも、言いたいことは、ちゃんとわかりました、から」
「!!では……!」
「この時間の外出は、控えます。あと、自分を過信するのも、やめる」


「……生意気言って、ごめんなさい」


ぐすんともう一度鼻を鳴らし、依然として悔しそうではありましたが、ナマエ様はそう言ってわたくしに小さく頭を下げました。
基本的に、ナマエ様は誠実で、素直な方です。
自分に非があると認めれば、このように頭を下げて謝罪することができる。
例えその相手が、灸を据えることにかこつけて己の欲望を遂げようとした『最低』な輩であっても。

そのような方に、わたくしは……!!

「!」

――ハッ!!そうです…わたくし、思いついてしまいました!
『ピンチは最大のチャンス』!!まさしくその通りでございます!!
あのような狼藉、決して許されるものではございません。きっとナマエ様の心は深い傷を負ってしまわれたことでしょう。
だとしたら、わたくしが…このわたくしが!生涯を捧げてその傷を癒して差し上げるべきではないでしょうか!……いえ、そうでなければなりません!!
ナマエ様を“傷物”にした責任を取らせていたd、


「と、言うわけで。はい、これ」
「――は?」


思いがけず転がり込んできたチャンスにわたくしが俄かに息巻いた瞬間、絶妙なタイミングで思考を遮るように手渡されたのは、ナマエ様がポケットに入れていた小銭入れでした。

「代わりにノボリさんが買いに行ってきてください、モーモーミルク」
「 あ、ぇ、いえわたくしは、」
「お互いそれでチャラにしましょう。俺も今回のことは忘れることにしますから」


「だから、ノボリさんもなかったことにしてください」


「……………はい」

有無を言わせぬ笑顔にそれ以上食い下がることもできず、「いってらっしゃい」という声に背を押されて玄関を出る。
そうしてわたくしはじわりと滲んだ視界を堪え、街灯も乏しいコンビニへの道をとぼとぼと歩いてゆくのでした。











「あれ?ナマエ、そんなとこで座り込んでどうしたの?」
「な、なんでもないです……!」
「もしかして具合悪い?顔真っ赤だし目が潤んでる!」
「っ…なんでもないですってばぁ!!」
「……ふーん?(またノボリと何かあったな)」



(12.05.18)