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『勝ったら、ノボリさんにちゃんと告白する』

そう決意したあの日から既に1ヶ月が経ってしまった。
その間に3回ほどノボリさんにチャレンジしたんだけど、結果は全敗。
スーパートレインでのノボリさんは鬼のように強い。
――だけどその反面、オフの時の、いわゆる恋人モードなノボリさんはちょっと戸惑ってしまうくらい私をドロドロに甘やかして――恥ずかしいくらい、『好きです』とか、『愛しています』なんていう言葉を惜しげもなく与えてくれるものだから、いつもそれを曖昧にはぐらかしてしまうのが、ものすごく、申し訳ない。

(うーん、でもなぁ……やっぱり一度決めたことは曲げたくないし)

「お困りのようだね!!」
「ひょわあ!」

ベンチに座って考え込んでたところで、いきなりクダリさんのドアップ(しかも逆さま!)
ビックリしてまた間抜けな悲鳴を上げてしまった私をベンチの後ろから覗き込んだまま、クダリさんは悪戯を成功させた子供みたいに楽しげに笑って、そのまま両手を軸に身体を持ち上げてくるりと私の前に着地するという軽業をやってのけた(すごい今の体操選手みたいだった!)

「ノボリとのバトルの必勝法、教えてあげよっか」
「?!っなん、(なんでわかったの!)」
「企業秘密!」
「!!!」

読心術の心得でもあるんだろうか。
思わずまじまじとクダリさんの顔を見つめていると、肩を竦めてクスクスと笑ったクダリさんが徐に私の耳元に顔を寄せて、内緒話をするみたいに声を潜めた。

「いい?これは、君しか使えない究極の必勝法だからね――」

ごくり。
いかにもな前置きに自然と喉が鳴る。
そしてクダリさんに授けられた『究極の必勝法』は、私の想像を斜め上に駆け抜ける予想外な戦略だった。









「ようこそ、おまちしておりまし――ッッた?!」
「こ、こんにちは、ノボリさん!」

7両目のドアを開けて足を踏み入れた瞬間、いつも通りの台詞で迎えようとしていたノボリさんの声が裏返った。
ああもう、視線が痛い。と言うかノボリさんガン見し過ぎですちょっとは視線泳がせるとか誤魔化すとかしましょうよ私だって恥ずかしいんですから!

「そ、そのお召し物は」
「さあ、さっそく始めましょうか!」

もうこうなったらヤケだ。
そんなに上手いこといくわけないとは思うけど、ここまで来たら覚悟を決めるしかない。クダリさんの奇策を信じよう。

「行って、スワンナ!『追い風』!!」
「――なッッ、ちょっ…!まっ、」
「『暴風』!!」
「!!お、お待ちくださいましぃぃ!!!」

――そして、私は……私はこの日初めて、スーパーシングルトレインでノボリさんに勝利することができて、しまった。

ミニスカートを履いて、ただ飛行タイプの技を乱発することによって。


「ぐっ……不覚を取りました……!!」
「(――折角勝ったのになんだろう、この虚しさと居た堪れなさ……)」
「わたくしとしたことが…ッ、わたくしとしたことが――ッッ貴重なパンチラをカメラに収め損ねるなんて!!」
「そっちですか!!」
「大丈夫だよノボリ!ばっちりバトルレコーダーに記録済み!!」
「スーパーブラボー!!!」
「えええ?!!」


は め ら れ た


その事実に気づいた時には時既に遅し。
いつの間にかバトルレコーダー片手に待機していたクダリさんは私と目が合うと『テヘペロ☆』とばかりにちゃめっ気たっぷりな笑顔を浮かべて、「やったねおめでとう!」と私の健闘を称えて両肩をポンと叩いてきた。
――だと言うのに、ちっとも嬉しくないどころか色々なものを失った気がするのは私の気のせいだろうか。

(やっぱり――告白するのは、ちゃんと実力で勝ってからにしよう……)

短いスカートの裾をぎゅっと握り締めて、初めて味わう勝利の美酒はちょっぴりしょっぱい涙の味がした。



絶対強くなってやる



――それでもノボリさんのこと好きだって思う気持ちは揺るがないんだから、私も大概なのかもしれない。




(11.12.27)