復活 | ナノ


「だから!んなまどろっこしいことしてねぇでさっさと行って皆殺しにすれば早いだろぉがぁ!!」
「何の策もなしに突っ込むのは莫迦のやることだ」
「ッ、テメェ・・!!おろされてぇのかぁ?!」
「勇敢と無謀は違うと言っている」

「「「………」」」


会議の席でギャアギャアと言い争い(と言っても騒いでいるのは例の如くスクアーロだけだが)を始めたスクアーロとナマエを、ルッスーリア、ベルフェゴールマーモンは少し驚いた様子で見つめる。

「……なー、俺スクアーロはナマエを気に入ってるんだと思ってたけど、王子の勘違い?」
「ウム、僕もそうだと思ってたんだけどね」
「私もよぉ……でもまぁ…喧嘩するほど仲が良い、とも言うし…?」

「上等だぁ!!表にで「うるせぇよ」」

ガタンと大きな音を立ててスクアーロが腰を上げた瞬間、お決まりのセリフと同時に飛んできたグラスがスクアーロの頭に直撃し、ぶちまけられた中身が彼の長い髪を滴って高級そうな絨毯にいくつもの染みを作った。

「う゛お゛ぉい!!」と語気を荒げて睨むスクアーロをザンザスは綺麗に無視し、ただ「解散だ」とだけ言ってさっさと会議室を出て行く。
スクアーロ以外の他のメンバー(ナマエも含む)も続々とそれに続き、結局会議はうやむやのままお開きとなってしまった。



* * *



「あ゛ー!クソ!!」

自室に戻って髪を洗い、濡れた服も着替えたスクアーロは銀髪をガシガシとタオルで乱暴に拭きながら誰に言うでもなく一人毒づいた。

(何なんだアイツのあの言い草は!可愛げが無ぇ……!!)

『私に可愛げを求める方が間違いだ』

スクアーロにしれっとそう言い返すナマエが妙にリアルに想像できる。
思い切り顔を顰めた彼はまたイライラを募らせながらドカッとソファに腰を下ろし、先ほどのザンザスのせいで多少汚れてしまった書類を睨むように眺めた。

今回のターゲットは南イタリアにアジトを構えるランニョファミリーの壊滅。
イタリア内では新参者のファミリーだが、ボスの戦闘能力が高いらしく、ボンゴレと同盟を結んでいるファミリーも既にいくつか潰されている。
更にランニョはオメルタが徹底されており、ボスがどのような戦闘スタイルを取っているのか、メインウェポンが何なのかすら現時点ではわかっていない。

ナマエはそのことを危惧し、本来2日後に予定されていた襲撃を見合わせるようザンザスに進言したのだが、そこで冒頭に見られるように根っからの好戦派であるスクアーロと対立してしまったのだ。

(あの頭でっかちがぁ!)

ナマエがヴァリアーに来てから既に一週間。
その間比較的に上手くいっていた分、スクアーロはナマエとの意見の食い違いにストレスを感じていた。
半ば八つ当たりのようにベシッと書類をテーブルに叩きつけ大きな動作で足を組みなおす。そんな時、不意に扉の向こうの人の気配に気付いた。
「誰だ」とスクアーロが声をかける前にノックの音と少女の声が部屋に響く。


「スクアーロ、私だ」


(………!な、)

まさかナマエだとは思ってなかったので、一瞬自分の耳を疑う。
中途半端にソファから腰を浮かせてドアを凝視していると「スクアーロ?」ともう一度彼を呼ぶナマエの声が聞え、スクアーロは慌ててソファに座りなおすと平静を装って答えた。

「――開いてるぜぇ」
「……失礼する」

ドアノブを捻る音に続いて、部屋に入って来たのはやはりナマエ。
彼女がスクアーロの部屋を訊ねて来るなんて初めてで何故か落ち着かない。

「……で、何の用だぁ」
「先ほどの話の続きに決まっているだろう」

わかっていたが敢えて嫌味っぽく言った言葉に、呆れた風な声音で更に嫌味っぽく返されスクアーロのこめかみが引きつる。相変わらず表情からは読み取れないが、ナマエもまた気分を害している様だった。

「良いか、スクアーロ」

トン、と背中をドアに預けながらゆるく腕を組み、何かを思い出そうとするかのように数秒程瞳を閉じてから、ナマエは続けた。

「セルペンテにいた時、ランニョのボスに一度だけ会ったことがある」
「……どこで」
「パーティーで。その時は別のファミリーの情報収集の為に変装して潜り込んでいた」

そんなこともしていたのか、と内心少し驚いたのだが表情には出さない。むしろ表情が出てしまっていたのはナマエの方だった。眉をきゅっと寄せ、どこか苦々しい顔をしている。

「あの男を侮るな。奴は……――強い」

『強い』と、ナマエのその言葉にスクアーロの眉が跳ねて釣りあがった。
それが彼のプライドを刺激してしまったことに気がつき、更にナマエが続ける。

「もちろんお前の実力は知っている。恐らく負けることは無いだろう。だが、何の情報も無しにあの男と部下達相手にやり合えばお前もお前の部下達も無傷では、」
「う゛お゛ぉい!!怪我なんか気にして暗殺できるわけねぇだろぉ!」
「それはわかっている。私が言いたいのはそうではなくて……ただ、こちらの被害を最小限に抑えたいんだ」

「――ハッ!」

ナマエの言葉をスクアーロは一笑した。その横顔は間違いなく冷酷な暗殺者のソレだ。


「弱い奴は消えれば良い。強い奴だけが生き残る。ヴァリアーはそういう場所だ」
「――……」

ナマエから一切の表情が消えた。
しかし彼女から目を離していたスクアーロはその変化に気付けないまま目を伏せて足を組み変える。

「俺は予定通り二日後に出るぜぇ」

カチャ、と冷たい金属音。
スクアーロに背を向けたナマエがドアノブを捻って部屋を出て行こうとしているところだった。

「――勝手にしろ」

スクアーロを振り向かず、ただ無感情な声でそれだけ告げて、間を置かずにドアが閉められる。
ナマエの足音が完全に遠ざり、彼女のいなくなった部屋は妙に静かで、沈黙をかき消すように大きく響かせたスクアーロの舌打ちはぎこちなかった。




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(07.05.25)(12.10.15 修正)