捧げもの | ナノ



※眞果さまリク!





もう少し、あともう少しなんだ

君に俺の手が届くまで




「山崎さん、頑張ってくださいね」


そういって女中のなまえは笑う。
なまえは唯一、このむさくるしい男の中で働いている女性だ。彼女の眩しいばかりの笑顔は皆をひきつけ、皆を魅了する。


「はは、俺は別に戦うわけじゃないんだけどね」


じゃあ、と手をあげると、彼女も手をあげてくれる。
俺は、その瞬間が好きだった。

けれど、なまえは皆にとってアイドル的な存在。

俺なんかとは、朝のあの瞬間しか話すことができない。きっと、彼女には俺の存在なんて、ちっぽけなもんだろうな、と思う




任務が終わり、ぶらぶらと歩いていると花屋を見つけた。



確か、数日前まではなかったような…



ふらりとその花屋に足を踏み入れる。

中には色とりどりの花たち。

俺はあんまり花には詳しくないけど、この花の名前ぐらいは知ってる。





コスモス





花言葉なんてものは、知らないけれどコスモスを見た瞬間、なまえの顔が浮かんだ。

淡い、オレンジのコスモス。

真っ赤なバラなんかより、オレンジのコスモスのほうがなまえには似合ってる。




「彼女にプレゼントですか?」




にこにこと笑いながら、女の店員が近づいてきた。



「え?いや、俺は……」



店員は俺の言葉を無視し、そのへんにあった花を何輪か見せてきた。



「これなんか、おすすめですよ」



名前が分からない花を見せられて、戸惑ってる俺を尻目に勝手に会計を済ませようとする店員。

財布の中身を隠れて確認すると、……自分が情けなくなった。

店員を見ると、花を買わないと帰らせない雰囲気をいつのまにか漂わせていた。



しょうがない




「これ、一輪ください」



そういって、俺はオレンジのコスモスを指差した。


ありがとうございました〜、という店員の声を後ろで聞きながら俺は一輪だけのコスモスを大事に持つ。

これをなまえにあげたら、どんな顔するんだろグフフ、と多分俺は気持ち悪い顔で笑っていたんだろう周りから奇妙な目で見られていた。



「なまえ、あの、ちょっといいかな」


皆のご飯の買出しに出かける直前のなまえに声をかける。


「?何ですか?」
「その、話があるんだ」


不思議そうに俺を見るなまえ。右手に持っている花をさりげなく隠す。


「あ、迷惑だったらいいんだ!」


心臓が激しく動く。
今まで危険なこともしてたけどこんなにも心臓が激しく動いたことがない


「そんなことないですよ」


にこり、といつもの笑顔。


「買出しにいく途中でいいんだ。俺もいっていいかな?」
「はい!」


右手の花を隠しながら歩く。


ドクドクドク


体に悪いくらい心臓が動く


「山崎さん、今日は何が食べたいですか?」



毎日の食事はなまえが作ることになっている。人数が多いので一人では無理だろうと局長が言ったがなまえは一人でやると首を縦に振らなかった。



「そうだなぁ…」


どうやって、これを君にプレゼントしようか


「あ、何でもいいは無しですよ?」


クスクス楽しそうに笑うなまえを見ると、俺まで笑顔になる。
なまえは笑うときに必ず、口に手をあてて笑う。そして今日もいつも通り、口に手をあてる……




「―――え」


ドクンドクン、さっきまで高鳴っていた俺の心臓は別の意味でさらに高鳴り始めた


「なまえ……それ、」


嫌な予感がした。きっと俺は見てはいけないものは見てしまったんだ





彼女の左手の薬指には、綺麗な指輪が光っていた。



「――わたし、彼にプロポーズされたんです」



にこにこにこ


なまえはいつものように笑う。



けど、それは


「わたし嬉しくって」


俺が初めて見たくないと思った笑顔だった


ドクンドクン


まだ心臓は激しく音を立てていて、


ズキンズキン


体のどこかは痛みを訴えていて、



「あ!そういえば、山崎さんの話ってなんですか?」



にこにこ笑う彼女の顔が俺には歪んでいて、



「山崎さん?」


俺が握っていた花がパサリ、と地面に落ちる


「――いや、ゴメン。話すこと忘れちゃった」


ヘラヘラと笑うと、なまえは自分の薬指を触った。


「山崎さんもいい人を見つけてくださいね」





何気ない言葉は時に人を傷つける



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コスモスは道行く人に踏まれて、俺のようで惨めだった

















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