捧げもの | ナノ
※ミミさまリク!
戻りたい、もどりたい、
きみと出会った、あの夏に――――
リセット
蝉の鳴き声が聞こえる。
なまえがいる。笑っている。
あぁ、これは夢か
だって、俺が知ってるなまえは、泣いてたんだ
俺が、泣かせたんだ
戻りたい。アイツの笑顔がみたい―――
「おい!起きろ!」
アイマスクをずらし、重たい目を開ける。目の前には不機嫌そうな土方(いや、奴はいつでも不機嫌ですぜィ)
せっかく、いい夢だったのに。
「…なんですかィ、俺は見てのとうり昼寝中でさァ」
またアイマスクを被り、目を瞑る。
だけど、土方の野郎にアイマスクを取られる。
「ちっ、」
なにしやがんでィ、と軽く土方を睨むと、奴はめんどくさそうに言う。
「お前にお客だ」
「……めんどくさいんで、居留守使いまさァ」
眠りたい。
はやく、あの夢の続きを見たい。
土方とはなしてる暇なんてない、もちろん客の相手をする暇なんて皆無。
そんな俺の態度を見て、土方は顔を曇らせた。
「…後悔すんなよ」
それだけいうと土方は俺の前から姿を消した。
“後悔すんな”?
もうしてるんだよ。
アイツを泣かせたときにもう後悔なんてやまほどしてるんだ。
もう後悔することなんてない。
俺はまた寝ることにした
*
俺がまだガキのころだ。
ミーンミーンと蝉がせわしなく鳴いている。姉上が笑っている。そして、アイツも……笑っている。
「沖田!勝負だ!!」
アイツ――なまえは近所に住んでいる女で時々うちに来て、俺に勝負を持ちかける。
俺のほうが強い。
男と女なんて、力の差がわかりきっているし、あいつはきっと、俺に勝とうなんて思っちゃいないんだ。俺に、ただ“負けた”といわせたいだけ。
そのためにわざわざ毎日の如く、うちに来る。
そんななまえのことを姉上は妹のように思っているらしく、快くうちに入れる。
「…どうせ俺にはかてねぇよ」
そういって、俺は竹刀を握る。
「うおおぉぉぉぉ!!」
威勢だけはいつもいい。馬鹿みたいにまっすぐ走ってくる。はやく終わらせるかと、竹刀を強く握ったとき、思った。
ここで勝つよりも、負けておいたほうがいいじゃないか?
そうしたらこいつが来ることもなくなるんじゃないか…
俺は、竹刀を握る力を弱くした
「ハアアアァッァァァァ!!」
そして、俺は負けた
その後、アイツは勝ったのに、嬉しそうな顔はしなかった。
「……し、て」
「?」
「どうして手加減なんてするんだよ!!」
泣きそうな顔をして俺を叱った。
初めてこんなに怒るなまえを見た。
俺はそのとき、なまえが俺に勝負をしかける本当の意味を知った気がした。なまえは俺に、勝ちたかったんじゃない
「わたしが、弱いから。つまらないから、負けようなんて思ったのか!?」
俺を詰る。好きなだけ怒ると今度は泣き始めた。
「なまえ……」
俺はそんななまえがいたたまれなくなって、なまえの涙を止めようと、手を伸ばす。
しかし
「触るな、ばか!!」
はじかれてしまった。なまえは俺を睨む。
「覚えてろよ!絶対お前に手加減してもらうような…そんなことはさせないからな!!」
仁王立ちで、俺に人差し指をむけ、なまえは言った。
「だから、だから………首を洗ってまっとけ!!」
その日から、なまえは来なくなった。
アイツが来なくなってから色んなことがあった。
姉上と俺の邪魔をする奴が出てきたり、姉上がその男のことをおもってることもわかった。そして、俺たちは江戸に行くことを決めた。江戸に行く日、なまえは俺を見送りには来てくれなかった。
少し、さみしかった。
*
また、朝が来る。
「総悟!」
土方の声。
「総悟!いい朝だなぁ!」
近藤さんの声。
いつもの日常。いつもの、景色
何も変わらない、ただ一つを除いて
「お前に客だ」
客?昨日も確か来てなかったか?いつからそんなに俺は人気者になったんでさァ
「いってきまさァ」
気分がいい。
今日は、風が気持ちいい。
屯所の入り口に、女がいた。
こいつが客ですかねぇ…?
「俺になんか用ですかィ」
女の顔は見えない。俯いているからだ。
「沖田…、沖田総悟さんですよね?」
「そうですけ……」
女が顔をあげる。昔より女っぽさが増したな、なんておもった。
「ずっと、ずっと……会いたかった。」
「なまえ……」
俺が見たくて、見たくてたまらなかったものがそこにはあった。
(その瞬間から、俺たちの時間は動きはじめた)