捧げもの | ナノ




※ミミさまリク!





戻りたい、もどりたい、

きみと出会った、あの夏に――――



リセット



蝉の鳴き声が聞こえる。

なまえがいる。笑っている。


あぁ、これは夢か


だって、俺が知ってるなまえは、泣いてたんだ


俺が、泣かせたんだ


戻りたい。アイツの笑顔がみたい―――









「おい!起きろ!」


アイマスクをずらし、重たい目を開ける。目の前には不機嫌そうな土方(いや、奴はいつでも不機嫌ですぜィ)
せっかく、いい夢だったのに。


「…なんですかィ、俺は見てのとうり昼寝中でさァ」


またアイマスクを被り、目を瞑る。
だけど、土方の野郎にアイマスクを取られる。


「ちっ、」


なにしやがんでィ、と軽く土方を睨むと、奴はめんどくさそうに言う。



「お前にお客だ」

「……めんどくさいんで、居留守使いまさァ」



眠りたい。

はやく、あの夢の続きを見たい。
土方とはなしてる暇なんてない、もちろん客の相手をする暇なんて皆無。
そんな俺の態度を見て、土方は顔を曇らせた。


「…後悔すんなよ」


それだけいうと土方は俺の前から姿を消した。

“後悔すんな”?

もうしてるんだよ。

アイツを泣かせたときにもう後悔なんてやまほどしてるんだ。
もう後悔することなんてない。


俺はまた寝ることにした









俺がまだガキのころだ。

ミーンミーンと蝉がせわしなく鳴いている。姉上が笑っている。そして、アイツも……笑っている。

「沖田!勝負だ!!」

アイツ――なまえは近所に住んでいる女で時々うちに来て、俺に勝負を持ちかける。

俺のほうが強い。

男と女なんて、力の差がわかりきっているし、あいつはきっと、俺に勝とうなんて思っちゃいないんだ。俺に、ただ“負けた”といわせたいだけ。

そのためにわざわざ毎日の如く、うちに来る。
そんななまえのことを姉上は妹のように思っているらしく、快くうちに入れる。


「…どうせ俺にはかてねぇよ」


そういって、俺は竹刀を握る。


「うおおぉぉぉぉ!!」


威勢だけはいつもいい。馬鹿みたいにまっすぐ走ってくる。はやく終わらせるかと、竹刀を強く握ったとき、思った。
ここで勝つよりも、負けておいたほうがいいじゃないか?

そうしたらこいつが来ることもなくなるんじゃないか…
俺は、竹刀を握る力を弱くした


「ハアアアァッァァァァ!!」






そして、俺は負けた














その後、アイツは勝ったのに、嬉しそうな顔はしなかった。


「……し、て」
「?」
「どうして手加減なんてするんだよ!!」


泣きそうな顔をして俺を叱った。

初めてこんなに怒るなまえを見た。
俺はそのとき、なまえが俺に勝負をしかける本当の意味を知った気がした。なまえは俺に、勝ちたかったんじゃない


「わたしが、弱いから。つまらないから、負けようなんて思ったのか!?」


俺を詰る。好きなだけ怒ると今度は泣き始めた。

「なまえ……」


俺はそんななまえがいたたまれなくなって、なまえの涙を止めようと、手を伸ばす。

しかし


「触るな、ばか!!」


はじかれてしまった。なまえは俺を睨む。


「覚えてろよ!絶対お前に手加減してもらうような…そんなことはさせないからな!!」

仁王立ちで、俺に人差し指をむけ、なまえは言った。

「だから、だから………首を洗ってまっとけ!!」








その日から、なまえは来なくなった。

アイツが来なくなってから色んなことがあった。
姉上と俺の邪魔をする奴が出てきたり、姉上がその男のことをおもってることもわかった。そして、俺たちは江戸に行くことを決めた。江戸に行く日、なまえは俺を見送りには来てくれなかった。


少し、さみしかった。











また、朝が来る。



「総悟!」


土方の声。


「総悟!いい朝だなぁ!」


近藤さんの声。

いつもの日常。いつもの、景色
何も変わらない、ただ一つを除いて




「お前に客だ」


客?昨日も確か来てなかったか?いつからそんなに俺は人気者になったんでさァ



「いってきまさァ」


気分がいい。
今日は、風が気持ちいい。










屯所の入り口に、女がいた。


こいつが客ですかねぇ…?



「俺になんか用ですかィ」

女の顔は見えない。俯いているからだ。


「沖田…、沖田総悟さんですよね?」
「そうですけ……」


女が顔をあげる。昔より女っぽさが増したな、なんておもった。


「ずっと、ずっと……会いたかった。」

「なまえ……」


俺が見たくて、見たくてたまらなかったものがそこにはあった。





(その瞬間から、俺たちの時間は動きはじめた)




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