小説 | ナノ








退屈な授業。つまらない話。
何と書かれているか分からない数式が黒板に埋め尽くされていて、中年太りのせんせーが何か言ってる。
ノートに書き写すフリをして、机にせんせーの似顔絵を描いた。あまりに上手く描けたので、誰かに見せたかったが、羞恥心が邪魔をする。
中年太りの授業は、いつも騒々しく、席を変わっても気付かない。後ろの人と席を変わってもらい、教科書を立てて、寝る準備を万全にする。

さようなら、現実。



「ねぇ、」



目を閉じて夢の世界に旅立とうとしたとき、誰かに呼び止められた。



「退屈、だよね。この授業」



誰だか、忘れてしまった。
元々忘れっぽい性格をしているからか、クラスの半分の人の名前すら覚えていない。



「えーと…、うん。そだね」
「なまえちゃんは、さ。数学好き?」


おおい、名前よびですか。
私を名前で呼ぶのは、家族だけだぞ。



「うー…、嫌い、かな?」



だって公式多すぎでしょ。
あんなのどうやって全部覚えろっていうんだ。それに、証明なんていつ使うんだって話だよ。



「じゃあなまえちゃんは何が好きなの?」



そうだなー。
勉強自体好きじゃないんだよな。



「美術かな。頭使わないことのほうが好きなんだ」



そういうと、隣の席の男子はニコリ、と笑った。



「そうだと思った。僕、なまえちゃんの絵、見たことあるんだ。すごい、上手かった。」
「そうなんだ、ありがとう。」



ちらり、と男子の胸元を見る。
今、思い出したのだが、生徒は全員胸にネームを刺繍している。


ふぅん、『基山』くんか。



「基山くんは?何か好きなものでもあるの?」



自分ばかり質問されているので、相手に質問してみた。
そしたら、基山くんは、目を大きく見開いた。



「?私、変なことでも聞いた?」
「…いや、まさか僕の名前、知ってるなんて思ってなくてさ…」



基山くんは困惑しながらも嬉しそうな笑みを絶やさなかった。

もしかして、馬鹿にされてる?



「いくら私でも、クラスメイトの名前は覚えているって。」


嘘だけど。


「…じゃあさ、苗字じゃなくて名前で呼んでよ」


いやいやいや。
初対面のような人に、名前呼びは……ちょっとね。
名前知らないし、



「うーん、ホラ。名前呼びってさ。親しい人にしか、呼ばないじゃない?
基山くんと私ってさ、今日話したばっかだしさ、」


「だったら、」




基山くんが口を紡いだ。







「僕と、付き合ってくれませんか?」