小説 | ナノ








今日は一言でいうと厄日だった。

朝は猫に顔面を引っかかれるし、学校に行けば授業では何回も指されて、しかも全部間違えるし。昼休みには、買いたかったイチゴオーレは売り切れだったし。
そして、今、

『あちゃー、雨降るなんて言わなかったじゃんか!』

目の前にはどしゃぶりの光景。
確かに今日の朝のニュースでは雨は10%って言ってじゃないか。お天気おねえさんめ!私はあなたを信じて傘を持ってこなかったんだ!

濡れてしまうが走って帰るしかない、と覚悟を決めて鞄を頭をかばうように持って、一歩を踏みだそうとした。
幸い、家に帰るまでそんなに時間はかからない。濡れるのは濡れるが、びしょ濡れになることはないだろう。

『くそう、明日から絶対あの番組見ないから!』

そして、頃合いを見て走り出したとき、誰かに腕をつかまれた。

「…何してるんだ、みょうじさん」
『あ?ああ!涼野くん』

そこには、同じクラスメートの涼野風介くんがいた。彼とは彼の出たサッカーの試合を見てから交流が始まった。

『えっとね、傘忘れちゃったんだ。サイアクだよねー』

えへへ、と笑う。
彼の手には大きな傘があった。

『いいなぁ、涼野くん。傘持ってて』

うらやましいよ。そういうと、彼は私に傘を差しだした。その行為の意味が分からずにいると、彼は私の手にそれを握らせた。

「濡れるのはいやだろう?私のを貸してやる」
『え?でもそれじゃあ、涼野くんが…』
「私はいいんだ、南雲にでも入れてもらう」

にこり、と笑う彼。
傘と彼を交互に見比べて、少し考える。これをもらったら彼は濡れてしまう。でも、南雲という人に入れてもらうって言ってるし…、

『あ!』
「?」
『私が傘を持つから、一緒に入って帰ろうよ!』

そしたら南雲っていう人に迷惑かけないし、まぁ、涼野くんにはどっちにしろ迷惑かけちゃうけど…。

て?

あれ?


これって、もしかしてもしかするとここここ、こ恋人たちのい、いいいい、いわゆる相合傘というものでは…?


『ああああ、あの、変なこと言ってごめんなさい!傘貸してくれなくていいよ、私濡れて帰るの抵抗ないし』


涼野くんは、口をぽかんとあけている。そんな涼野くんに傘を押し付けて、走り出す。

あぁ、雨ってこんなに痛かったんだ

顔に容赦なく当たる水粒に痛さを感じながら、必死に走る。

「みょうじさん!」

涼野くんの声だった。
走るのはやめ、後ろを振り向く。

「そんなに濡れると、風邪ひくぞ」

傘を差した涼野くんが笑って私にも濡れないように傘をさしてくれた。

『え、でも…、あの、相合傘になっちゃうよ』
「…私にはどうってことない。それに、相合傘のほうが好都合だ。」
『え?それって…』
「さぁ、雨が激しくなってきた。帰ろう」

うまくはぐらかされたように感じたが、聞くのも聞けずにそのままおとなしく涼野くんの傘に入れてもらった。

それにしてもなんていうか、近い。こんなに他人の体温を感じたことなんて一度もない。

「なぁ」

突然彼が口を開いた。

「これからも、一緒に帰らないか」

思わず足を止めてしまった。

『それって…』
「多分、みょうじさんが思っているとうりだ」

顔がみるみると赤くなっていくのが自分でよくわかった。

「歩きながら、話そうか」

涼野くんは、にこりと笑った。
どうやら私の心臓はしばらくなりっぱなりだろう。



ある雨の日のこと