『ど、如何して此処にいるんだ…?』


シエルは俺の質問に答えず、黙って男を見る。


「…お前がファントムハイヴか」


男は銃を下ろし、シエルの服の襟を掴んだ。


「こんな女のどこがいいんだ!こんなこんな女の何処が!!」


男は叫ぶように言った。


……こんな女ってなんだよ


「シリウス・カリギュライ。
昔、シリウスには姉がいた。
姉――名前とシリウスは仲良く暮らしていたがある事件を境に姉弟は引き裂かれる事になった。
姉弟は親がいなくなったが姉の名前は貴族に引き取られる事になり、その後シリウスは行方不明になった」


シエルがそういい終わると男はシエルを掴んでいた手を放した。


「一体何処でそれを…」
「…なに、うちの執事は有能なだけだ」


シエルの隣にいるセバスチャンはニコリ、と微笑んでいた。


「…お嬢様」


執事の名前の声がしたと思ったらいつのまにかセバスチャンの隣にいた。


「エリザベス様をここに連れてきた犯人はシリウス様だったのですよ」


執事の名前は哀れむような顔で名前を見る。


『シリウス、だと…?』


名前は手で顔を覆い目を大きく見開いている。


「…全てはあの日から始まっていたんです」


そういうと執事の名前は全てを話し始めた。



***



「名前、今日はなにして遊ぶ?」
『そうだなぁ…今日は外で遊ぼうぜ!』
「分かった!」


二流貴族の家に生まれた名前とシリウスは近所では有名な仲良しの姉弟であった。
二人はいつも一緒で幸せだった。
けど、そんな日々も長くは続かなかった。


「…お父さん、お母さん?」
「シリウス!見ちゃだめだ!」


名前とシリウスの両親は強盗によって殺されたのだ。
幸い、二人は殺されずにすんだが、両親は即死だった。


「なぁ名前っ、お父さんとお母さんはっ…死んだのか?」


涙を流しながらそう質問するシリウスにまだ幼かった名前は黙るしかなかった。


「大丈夫、大丈夫だから。
俺はお前とずっと一緒にいてやる。お前を一人になんてさせないから」


名前は涙を流すシリウスの頭を撫でながらそういった。


その直ぐ後だった。


「名前が引き取られた?」
「えぇ」


両親が亡くなって以来俺たちの親代わりをしてくれた叔母さんがそう告げた。


「嘘だ!!」
「シリウス、これは嘘じゃないの。本当のことなのよ」


シリウスは両親を失ったときよりショックを受けていた。


「名前は、ずっと一緒にいてくれるって約束してくれたんだ!」


(名前が約束を守らないなんて…俺を捨てるなんて…)


「シリウス、よく聞いて
引き取られたほうが名前にとっての幸せになるのよ?
名前が幸せになるのにあなたはそれを邪魔をするの?
ここで身をひくのが名前にとっての幸せになるのよ
それだけは分かって頂戴」


叔母の言葉は説得力を感じた。

こんな弟と一緒にいるより捨てたほうが幾分マシだろう
名前は幸せになるために俺を捨てたのだ

シリウスの心は名前の怒りでいっぱいだった。
その数日後、シリウスは行方不明になった。


名前は男をじー、と見た。


『シリウス、なのか?』


男は静かに答えた。


「そうだ…昔お前が捨てた弟だよ」


シリウスは冷たい目をしている。


「俺はお前が憎かった。
俺を捨てて幸せになっているお前が憎かったんだ!」


シリウスは泣き叫ぶ。
名前はシリウスを抱きしめる。


『…俺はお前を捨てたわけじゃない、あの日俺は叔母さんから"シリウスはあなたがいないほうが幸せになる"と言われたんだ』
「……そんなこといまさら言っても遅い、もう全て遅いんだ!!」


そういうとシリウスは子供のように嗚咽をもらしながら大泣きし始めた。
名前はそんなシリウスをずっと見ていた。


『…シリウス、人生に遅いなんてことは無いんだ
間違ったことをしたのならやり直せばいい
時間はたっぷりあるんだからな』


名前は子供のときと変わらぬ笑顔でニカッ、と笑った。
そんな名前たちを執事の名前は静かに見ていた。

















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