首を刎ねたらお前は死ぬか、とエレンに問いかけた。
「当たり前じゃないですか」という言葉をリヴァイは期待したのに、事もあろうにエレンは「判りません」だなんて言ってのけた。それがいけなかった。
「お前が悪いんだからな」
呟く様にリヴァイは言った。腕が一閃。あ、とエレンがひとこと呟き、首の半分まで切り込みがはいった。切り落とさなかったのはリヴァイが怖かったからである。エレンが本当に死んでしまうのが。
ばたんとあっけなくエレンの身体は倒れた。だくだくと溢れる血に唇がわななくのを感じた。
ひく、と痙攣する手足で彼がまだ生きている事を知る。嗚呼、と思った。
「すまない」
謝罪が口をついて出た。きろ、と力無く光彩が動いて、リヴァイを見た。まるで機械人形の様だと貴族の遊び道具を思い出した。
溢れる命を手で掬う。赤いそれはワインの様だった。
きっと何かの手品なのだ。「ほら、めをとじて」後ろから囁く声に従順に瞳を閉じる。
さん、にぃ、いち。
さあめをあけて。
「――――……………」
ふっと瞼を上げるとエレンがいない。血溜まりがリヴァイの顔を映していた。エレン、とリヴァイは幼子の様に心許ない声を出した。なさけない。自分でもそう思った。
立ち上がった拍子に血溜まりを踏んだ。ぴちゃん、と大人しい音を立てて波紋が向こう側を曖昧なものにする。
この血溜まりの向こうにエレンがいる気がして、再びしゃがんで手をつく。血は冷たく、冷えきっている。掌は虚しく床に触れて、同時に不快にもなった。水洗いしようと部屋を出た。
歩く度に手についた血が床に点々と跡をつける。これは道しるべなのだ。迷わないためと、微かな期待の表れ。
ぽつぽつと小さくなっていく跡はそれでも途切れる事はなかった。外に出て、井戸水で手を洗う。流れ落ちる血は手から擦り抜ける命そのもので、リヴァイは手放した事を微かに後悔したのだった。エレン・イェーガーはもうどこにもいない。





クラシカル・ブルー





2012.03.19