足を進めるとごろりとした、何やら不快感を感じる感触が伝わった。見ると、腕。変に見覚えのあるそれに眉を顰めた。この既視感の正体は、何だ?
「あ、あった」
エレンがそうなんでもない事の様に言った。羽織ったマントのせいで判らなかったが、ジャケットの袖が肘あたりから無かった。食いちぎられた、というより切り取られた、が表現として正しく思えた。
それは右腕に見えた。エレンは己の右腕で、それを拾い上げる。妙に生々しい腕だった。
「お前のか?」
「そうです」
迷いなく即答だった。でもいらねぇな、これ。エレンはそう呟くと窓の外をきょろきょろ眺めて、誰もいないらしい方向に投げた。
行方を見守る事をリヴァイはしない。想像はつくし聞くだけ野望というものだ。
だだ一つ。
「……………………」
エレンの瞳だけが気になった。あの目は強くある者の瞳ではなく、無感動で無感情な者の虚ろな瞳だった。
歩いていく度に彼の四肢が見付かる。とある扉に引っ掛かっていたのは左腕で、ドアノブを掴んだままそこにあった。ついさっきの事だったのか、死後硬直により懲り固まった指を無理に開いて、同じ様にエレンは窓からそれを捨てた。
階段を降りると、冷たい石畳の上には左足があった。ブーツを履いたままのそれは、奇妙に現実感の無い半端な断面を晒して転がっていた。窓が無いのでエレンはわざわざ戻って左足を放り投げにいった。今まで聞こえなかった、どさりといった音が聞こえた。
駆け足でエレンは戻ってきた。こつこつこつこつ。高く響く靴の音が頭の中で反響した。
階段を降りて地下室への扉を開こうとすると違和感。覗くと、やはり右足が落ちていた。リヴァイが何かする前にエレンはそれを掻っ攫ってどこかへ行った。そんなエレンを待つ間、リヴァイはどうして地下室なぞに行こうとしたのか判らずに首を捻る。エレンが駆け足で戻ってきた。扉を開ける。
いつも通りの地下室だった。長くない階段を降りて錠付きのベッドに腰を下ろす。指先に感じた生暖かさに疑問。シーツを捲り上げると首があった。エレンの、首だ。
振り返ると首の無い身体が、こちらへ両手を差し出していた。首を寄越せ。そういう事だろうか。リヴァイは首を降る。これだけは譲れなかった。両手が大人しく引き下がる。首を持ち上げる。開く事の無いであろう双眸を予感しながら、リヴァイはその瞼に口づけた。





という夢を見たのさ!





2012.02.25