含み笑いを浮かべた片割れを、これほどまでに恐ろしいと感じた事はなかった。
見るからに空気が張り詰め、じわじわと大気が呑まれる錯覚。がたんごとんと不安定に揺れる車両も、にまりとした笑顔も、全てが狂気じみている様にノボリは感じていた。じわじわ。じわじわ。夏の熱気の様な狂気、いや、狂喜が伝わって来る。
「―――――デンチュラ」
しかしそんな気配とは裏腹に、ボールから放たれる音は酷く軽快でファンシーだ。ノボリも同じ様にしてシャンデラを放る。静電気の様な鳴き声と硝子の様な鳴き声が車両に響いた。
クダリを見る。爛々と光る瞳。吊り上がる口元。ぞくぞくと背中に走る恐怖と喜悦が興奮を呼ぶ。嗚呼、挑戦者など放置して今すぐこの弟と手合わせしたい。そんな衝動と欲が溢れ出る。
少なからずそんな主人の思惑を感じたか、シャンデラが一声鳴いた。我に帰る。本当、彼女は良いストッパーになってくれる。
「………………クダリ、」
礼も兼ねて一撫で。目線だけの指示は伝わり、相手のワイルドボルトをまもるで防ぐ。ぴしゃんという甲高い音は、デンチュラが放った雷の音だろうか。
「ごめん、ノボリ。ぼくすっごくたのしい」
子供の様な声音で言いながら、その目が狂気染みた戦闘意識に染まりきっているのはとうに知れた事だ。楽しい。もっと、もっとと訴えかけるそれはまるで中毒患者の様。もっと。
「ね、くれるでしょ?むしのさざめき」
「…………修理の為の書類は全て貴方に回しますからね。シャドーボール」
わん、とした音の奔流と、黒いブラックホールの様な丸い塊が放たれる。相手のゼブライカは倒れ、ブルンゲルは辛うじて耐えた。口笛を鳴らす。
がたんごとん。車両が揺れる。振動の心地よさと興奮を感じながら次峰を待つ。次が本命であり、切り札。心臓が早鐘を打つ。
「デンチュラ、かみなり!」
「シャンデラ、まもる」
ゼブライカの次はズルズキンである。ブルンゲルをデンチュラが仕留め、シャンデラは弱点である悪タイプの登場に守りの姿勢になる。
ブルンゲルの次に現れたのはウルガモスである。デンチュラには不利だ。
ズルズキンはりゅうのまい、出てきたばかりのウルガモスもまた、ちょうのまいで能力値を上げてきた。クダリが笑う。
「デンチュラ、ズルズキンにむしのさざめき!」
「まもる」
二度目は賭けだったが上手くいった。つじきりを交わしきったが、しかしデンチュラがむしのさざめきを放つ前に、ウルガモスのねっぷうの方が早かった。コートが煽られ、ぶわりと汗が吹き出る。デンチュラが倒れた。
「シャンデラ、ウルガモスにオーバーヒート」
炎が猛りウルガモスに標的が定まる。だがその前に、ズルズキンが早かった。つじきりが決まり、シャンデラもまた倒れる。
「………………」
「………………」
弧を描いた唇が、二つ。






3分ショッキング