れろ、と左目を、左の眼球を直に舐められた。叫ぶ事すらできずノボリは身体を硬直させた。クダリはその間にノボリの両手を背中側で纏めてしまった。はたから見れば抱き合っている様な姿勢。
「く、くだっ」
縺れた呂律ごと今度は舌を掬う。巧みに搦め捕って翻弄すれば目の前の黒衣はもう動けない。
唇を放して漏れる熱い吐息を感じながら、クダリはノボリの目元に口づけた。ひくんと跳ねる肩。
眦から舌を触れさせていくと、蕩けた瞳はやがて意識を取り戻していった。焦燥が表れ始める。
ちろちろと端を舐める。塩辛さと肌、両方の味をクダリは堪能する。ざらざらした舌が動く度、ノボリは困惑を色濃くし眼球を蠢かせた。ごろり。その感触が堪らない。眦から、じれったい程のゆったりとした動きで粘膜を舐める。呻きが微かにノボリから漏れた。じっとしろとでも言う様に、クダリは腕への拘束を強くする。
痛いのか、それとも違和感が酷いのか、表情は歪み涙が溜まってきていた。
反射で閉じようとする瞼を拘束する右腕とは反対の左手で制した。くだ、り。震えた声音が可愛くて仕方がない。灰色の虹彩がぐる、ぎょろ、と逃げるように動いた。ぬめり、粘膜同士が触れ、擦れ合うその感覚のおぞましさよ!ノボリは背筋を這う恐怖でも快感でもない、何ともいえないそれに怯え、クダリを糾弾したい気持ちで一杯だ。
「ね、ノボリ」
舐めながらクダリがいいよねと言った。
何の事だ、とノボリが戸惑った次の瞬間、クダリは眼窩に沿って唇を押し当て、思い切り吸った。眼球が持っていかれるかの様なその感覚に悲鳴をあげる。
「っひ、くだ、やめてくださ、クダリ、!」
じゅる、と唾液と涙が混じった訳の判らない液体が、だらだらと片頬を流れ落ちる。

――――喰われる。

冗談でもなんでもなく直感した。この愛おしい弟は、目玉を、引いてはノボリを喰らわんとしている。何たる、何たる事だ!怯えた様に震える両手はしかし動かない。いや自由だったとしてもノボリは動けなかっただろう。恐怖と諦めが入り混じった諦観を露わにしながらノボリは唇を引き結ぶ。来るやもしれない激痛に耐えようとしたのだ。
しかし予想に反し、濡れた音を立ててクダリの唇は離れていった。至って優しい手つきで、唾液や涙で濡れた顔を拭う。
「……………クダ、リ?」
左側の視界が怪しいままノボリはクダリを見つめた。ノボリも知ってるでしょ、とクダリが言った。
「ぼく、好きな物はあとから食べるの」
とびきりの笑顔で言う、クダリ。





指きってたべて