あふ、大きな欠伸をクダリが発して、ノボリにもそれが移った。時計を見たらばとうに深夜で、目尻の涙を拭いながら、「終わる気がしませんね」とノボリが呟くように言った。目の前に光るパソコンのモニター。 ん、と声を出さず頷いて、クダリが書類に判を押していく。積み重なる書類の中身は、トレインの修理の為の経費、些細なダイヤの変更や、鉄道員のスケジュールなど。 それは世間が年越しである今日も変わりは無く、あと十分もすれば新年であった。 「今年もここで年越しかあ」 「まあよろしいでしょう。蕎麦は一応食べているのですし」 「出前だけど」 そう言っている間も手は休めない。かたかたというキーボードの音と、ぱらぱらという紙をめくる二つの音が響く中会話を続ける。 「今年、忙しかった」 「腕っ節の強いお客様も増えましたね」 かたかたかたかたかた。 「常連さんも増えたね」 「プラズマ団の事もありましたし。てんわやんわでした」 ぱらぱらぱらぱらぱら。 「そういや、あの騒ぎいきなり静かになった。誰が鎮圧させたんだろ?」 「そういえば話を聞きませんね。挑戦者様の中にいらっしゃるのでは?この書類に判お願いします」 クダリはそれを受け取る。さっと眺めて判を押す。 「ん。でもそれはないんじゃないかな」 「おや、何故?」 「ここはバトルサブウェイ。廃人の巣窟。そんなイッシュを救った救世主様が、こんな所に来ると思う?」 ぎっ、と椅子が鈍い音を立てた。軽く伸びをしながら、ノボリは時計をちらりと見る。 「そう言われればそうですね」 「トウコとトウヤはないよ。絶対」 「同意です。あの廃人ぶりには目を見張るものがあります」 そろそろ蕎麦?呟く様にクダリが尋ね、ノボリがはい、と短く返事をした。同時に、たん、とエンターキーを叩く音が響いた。 「ノボリ」 「何でしょう?」 「今年もありがと」 「こちらこそ。クダリ」 「ん?」 「来年もよろしくお願いします」 「うん」 ぼーん、と時計が音を立てて、日付が変わったのを知らせた。 2012.01.01 |