ものを隠すのは得意だ。






艶やかな色をのせた金がゆるやかに細められる。リヴァイは満足気に歩み寄るとその細いが、やや骨ばって思いの外しっかりした様相の両腕が伸ばされる。
簡素なシャツとズボンを纏ったその身体で、唯一包帯の巻かれた左腕に手を絡める。
座り込んだまま本当に幸せそうに微笑むその表情が偽物でない事をリヴァイは知っている。余す所なく、今のリヴァイはこの少年の事を知り、理解している。

「へいちょう」

覚束ない、どこか舌足らずなそれは幼い子供を思い起こさせた。幼児退行、の四文字が頭を過ぎる。しかしリヴァイにとっては都合の悪い事など一つもない。
こんな風になってまでこの少年はリヴァイを「兵長」と呼ぶのだ。最初は再教育しようかとも思ったが、舌に馴染みきってしまったらしい。ならばこのままでもいいかとも思う。
少年が座るベッドに自分も腰かけると、その猫目を輝かせて抱きついてきた。
以前は普通に抱きついてきたのだが、そのままだと少年よりも背の低いリヴァイには(とんでもない理不尽であるとリヴァイは考える)、少々苦しい。何度か苦言を呈し、今のように腰に抱きついてくるようになった。
今となっては本物の猫のようだ。前はどちらかというと、犬っぽかったか。命令が来るまで待って、構ってやると尻尾を振る。
うりうりと頭を撫でる。端から見ると、無表情な青年が嬉々として少年に抱きつかれながらその頭を撫でているというのは滑稽とも取られただろうし、犯罪とも見られたかもしれない。
「きょうは、どこに?」
「どこにも出れやしねえよ」
書類に追われた一日だった。壁外調査などそうそう出来たものでは無いし相応のリスクも付き物だが、この様に無駄な書類を片付けるだけの淡々とした作業よりはよっぽどましな気もした。
首元を擽ってやるとにへらと笑う。締りのない笑顔だ。この世の害悪など何も知らないという様な、そんな笑顔。
腹にぐりぐりと額を押しつける所作が、何故か無性に愛おしくなって無理に顔を上げさせて噛みつくようなキスをした。
唯一存在する小窓からはささやかな月明かりが差し込んでいた。
少年の瞳がそれを捉えて僅かに歪んだ。リヴァイはそれを見せないよう、少年に覆い被さった。月に似た金が揺らいでいた。






花と遺骨






2012.02.03