※女体化、若干の年齢操作注意。











クダリが強行手段に出ようかと考えたのは、酷く雲が厚く、そのくせ切れ切れな隙間から鮮やかな程の夕暮れが、皮肉気に夜を知らせ始めていた、そんな時の事だった。
唐突だった。クダリは常日頃から姉たるノボリに劣情を抱いていた。劣情。そう、確かにそれは劣情に違いなかった。柔らかい唇を蹂躙して、白い肌に傷をつけて、その内を侵入して荒らして、あわよくば子を産ませようと常々考えていた。今もだ。
革靴越しの砂利の感触がいやに鮮明だ。空を見ればすっかり暗くなった青がクダリを覗き込んだ。月も星もそこにはない。
信号が青になったのを確認して足を踏み出す。車のライトが眩しく、微かに顔を顰めた。
温い風を受けながら家路を急いでいると、ふと異臭が鼻をついた。
焦げ臭い。暗闇に紛れて、ふらふらと煙りが空に立ち昇っていた。鈍色が、微かに色づいた煙りを目で追う。
丁度煙りの充満する最中でクダリは立ち止まる。喉がじりじりと焼かれている様な、何とも言えない空気がそこら一体に広がっている。けれどクダリは、その空気が懐かしく感じた。
昔、片手で足りる程の回数、花火をした事がある。
ぱちぱちと炎が弾け、鮮やかな色が壁を照らしていたのを、よく覚えている。クダリは、花火ではなく、その花火が作り出す色の映る壁を見つめていた。花火は派手であればあるほど、いい。
そんなクダリとは別に、ノボリはあまり派手な花火をしなかった。クダリがあまりにぽんぽんそういう花火を扱うからというのも理由の一端ではあるのだろうが、ノボリはネズミ花火や線香花火をやっていた。そしてそれすら頻度が低かった。
ノボリはクダリが派手な花火をしているのをよく見ていた。幼心に、それが印象付いている。懐かしくて懐かしくて、クダリは目一杯空気を吸い込む。勿論げほげほと咳込んでしまい、涙目になった。苦しい。
それでもまだそこに留まっていたくて、クダリはぼうと空を見上げた。火元が近いのか、ぱちぱちと爆ぜる音が聞こえた。
橙さえ消え失せた濃い夜空に、時折炎が飛んできた。赤みがかった火の粉はふわりふわりと虚空を飛び、やがて見えなくなった。灰にでもなったのだろう。クダリの中の激情の様で、苦笑して彼は歩き出す。
燻った火が、灰になる日は来るのだろうか。





上手な潜り方