「カミツレ」
「あら、クダリ」
珍しい、と目の前の男を見ながらカミツレは言葉を零す。バトルサブウェイに引きこもっているが如く地下から出て来ない人間が、目の前にいる。何だか奇妙な違和感がふわふわと胸に纏わり付いて、カミツレはじろじろとクダリを見た。
「貴方がやってくるなんて。明日は嵐かしら」
「失礼だなあ。ちゃんとした用事だよ」
サブウェイマスターの象徴の様なコートを脱いでいるクダリは新鮮だった。新鮮の中の違和感。何故だろうか。昔は彼だってコートを着てはいなかったのに、不思議だ。
「カミツレ、フキヨセのジムリーダーと仲良かったよね。何だっけ、フウロさん?」
「ええ」
「あの人の飛行機に乗せてもらいたいんだよね」
取り持ってくれない?
無邪気な笑顔でクダリは言う。それは構わないけれど、とカミツレは疑問を隠さず尋ねる。
「あれは貨物機よ?フウロは意外と真面目な所もあるから、多少渋るかもしれないわ」
「アララギ博士を乗せてるじゃないか」
からからとクダリは笑う。それもそうかとカミツレはそれ以上言わなかった。恐らく、そんな内容の事を言えばフウロもきっとクダリを貨物機に乗せるだろう。というか、どこでそんな事を知ったのだろうかこの地下鉄廃人。
「それにしても、どんな風の吹き回しよ。バトルサブウェイはどうしたの?」
「最近色々あってね、暫くシングル、マルチは運休だよ」
カミツレの知らない事だった。彼女は曲がりなりにもジムリーダーだ。すぐにとはいかないが、ライモンシティの情報なら大体耳にするはずだ。なのに。
「……………そうなの」
溢れる疑問を押さえ込み、カミツレはそう返事をした。如何にも怪訝そうな顔しているはずなのに、クダリは何も言わない。
「うん。だから旅行にでも行こうと思ってて。行きだけでいいんだ」
クダリの笑顔はいつもと変わらなかった。いつも?不意に思った。いつものクダリを、カミツレは知っていただろうか。
「とりあえず久々だしさ、バトルでもしない?」
「そうね」
確かに久々だった。お互い職場どころか、ステージが既に違うのだ。地下と地上。案外まかり通らぬものである。
カミツレはボールを取り出す。体から興奮が沸々と沸き上がるのが判った。クダリは強い。ノボリも強い。ゾクゾクするような強さが、二人にはある。
「そういえば、クダリ」
「何?」
「ノボリは旅行に行くの?」
アーケオスが甲高く鳴いて、ゼブライカが嘶いた。クダリはにこやかに「ノボリは先にいっちゃった」と言う。「何処に?」「遠く」「何よそれ」曖昧で実に抽象的である。今日は疑問ばかりだな、とカミツレは早くも一日を振り返った。ばちばちと目の前で閃光が走る。
「貴方はどこに行くの」
「シンオウだよ。ちょっと洞窟探検にでも行こうと思って」
カミツレは何となくクダリの背後を見た。少し後ろには大きめの荷物。

「全く関係ないけどクダリ、今日何を食べたのかしら?」
「肉」






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