クダリは笑った。
空虚で虚ろな笑い声が部屋の中に響く。
「何だ、何だ、なぁんだぁ」
簡単な事だったんだ、と言うクダリの口元はいつもの様にきゅっと吊り上がっていたが、しかし眉は彼の兄がたまに浮かべる表情の様に、酷く顰められていた。
鈍色が忙しなく自室を眺め、やがて諦めた様に伏せられ、また眺める。
何かを探しているかにも思えたが、それにしたって彼は一歩も動かない。
その動きはやがて止まって、彼はふらふらとベッドに倒れた。ばふん!と音がしてスプリングが軋んだのが判る。
目の前のシーツの波を、先程とは打って変わったとても静かな様子で見ている。視線はゆっくりゆっくりと白い皺を辿り、くしゅりと負けないくらい白い手袋が更に波を深くする。
そして何の前触れもなく、
ぼろっ、
と、その鈍色から水滴が零れ落ちた。
それらは止む事を知らない。はたはた、ぽろぽろと頬を滑りシーツに染み込んでいく。
「う、っく」
口元からは堪えきれない嗚咽が洩れ始め、とうとうクダリはわんわん声を上げて泣き始めた。これを拭ってくれるだろう片割れも今は家にいない。その分遠慮は無いが、しかしどうしようもない寂しさとかが、水滴と泣き声になっていく。
「うああああ、ああああ………」
こんなに思い切り泣いたのも、泣く程悲しく、悔しかったのも大分久々の事だ。大人気ないですよ、クダリ。不意にノボリの事が蘇り、会いたくなって同時に情けなくなってクダリはまた泣いた。
今会う訳にはいかなかった。ノボリはクダリに背負えないものを背負っている。それはクダリにも言えた事ではあったが、しかしノボリが背負っているものは、クダリにはどうしたって対処できないものだ。手伝ってあげたくとも、クダリはその術を知らぬ。嗚呼、嗚呼、嗚呼!クダリは喚いた。泣いた。
やがてそれは段々小さくなり、声は大分掠れた。シーツは洪水みたくびしょ濡れだったが、乾かす為に立つ気力も無かった。クダリはそのまままた、頭を伏せる。
どうしてきみの重荷はぼくにはせおえないんだろう。クダリは考えて、考えて、そうして止めた。それはどうしてクダリの重荷をノボリが背負えないのかと言っている様なものだ。そうして何処と無く、実感する。
だからぼくらは別々で、だからぼくらは双子なんだ。






一緒になれない