※女体化注意









愛した女が純潔だと無条件に信じようとするのは解せない。
もっともだ、何度もクダリは頷き、目の前で熟睡するノボリを見た。投げ出された伸びやかな四肢と、伏せられた瞼。緩やかな呼吸により僅かに上下する胸。
呼吸している事と生きている事はイコールなのだろうか。
そんなささやかによぎった疑問を一瞬真剣に考えかけて、すぐさまどうでもよくなる。今この瞬間があるのだから、答えのない問題を考えるのはきっと徒労以外の何物でもない。
クダリはノボリの寝ているソファの後ろに回り込んだ。どうやら居眠りだったらしく、座り込んだ姿勢の膝の上には書類が何枚か乗っていた。
背もたれ越しに顔を覗き込む。目眩がしそうな程、同じ顔をしていると思う。それでもどこか違った印象を抱かせるのは、普段の行いの違いだろうか。何故だか、ノボリの寝顔は幼く感じる。
凜としている癖に、それを補い余る程の仏頂面をいつも晒しているせいかもしれない。
クダリの寝顔を、この姉は「やけに静か」だと形容した。普段騒がしいですからね。そう行ってのけた口調を思い出した。
手袋を取り、コートを脱ぐ。机の方へ両方を投げやった。過程で、生真面目にハンガーにかけられた黒いコートが見えた。
少し考え、クダリは己の机にコートを取りに戻り、ノボリに毛布代わりにして被せた。書類は多少乱雑に纏め、彼女の机の上だ。
ノボリが勤務中に居眠り、しかも熟睡してしまう事など、そうそうない事だ。明日には槍が降るのでは、とささやかな危惧すら抱いた。すぐに、杞憂だなと考えを打ち消す。
つ、と素手でそのよく似た輪郭線を辿る。滑らかな肌に感じる心地好い体温。ノボリ、と囁く様に話しかけてみた。返事は寝息だった。
する、と輪郭から首に指を伸ばす。触れるか触れないかの曖昧な指先は、鎖骨をなぞり乳房に僅かばかり触れた。腰のくびれを過ぎ、スリット越しの白さばかりが目立つ脚に触れた。ふるり、睫毛が少し震えた。
この瞼に触れたのは、クダリのはずだった。この髪に、首に、四肢に、吐息に。先に触れたのは、クダリであったはずだ。
確固としたその確信が、己の中で揺れているのが判る。そうだっただろうか。
この女に触れ、乱し、全てを掻っ攫ったのは、本当に自分が初めだったのであろうか。
銀に似た灰がちかちかと光に照らされている。全く似たような手触りを、クダリは何度も慈しんだ。指先を滑り落ちるそれは砂の様にも思えた。掴みきれないそれは、さらさらと指先を落ちていくのだ。







神様にでもお訪き