※「リセットボタン」の続き。 殺す事を不意にやめてみた。いつも決まった場所で決まった時間に殺される少年は、何歩か進んだあとリヴァイを振り返って、「今日は殺さないんですか?」と言った。 リヴァイは短く顎を引く事で答えた。それから、今度は殺す事と、もしくは話す事を目的に二人はその場所で居合わせる様になった。数奇な運命である。 リヴァイは少年の名を知らないし、少年もリヴァイの名を聞かなかった。「ガキ」と「殺人鬼さん」で会話が成立してしまった為だ。 今日は会話目的で来たはずだった。刺殺以外をした事がないのだと言ったら、少年は「じゃあ俺で試してみますか」と答えた。そりゃあいいとリヴァイは早速手を伸ばす。 頭の後ろにごりごりした石粒の感触がして、頭皮を痛い程に刺激した。マッサージにしては行き過ぎだ。 視界は、赤い。季節はとうに夏で腕や頭、シャツ越しに背中を刺す石ころはどことなく熱を帯びている。肌を焼く様な夕日は閉じた瞼の奥へも光を与えた。開けても閉じても、赤い。 首を締め付ける腕は却って尊敬する程加減を知らなかった。ぎっ、ぎっ、ぎっと馬乗りになって体重を活かしつつ気道を圧迫するリヴァイの瞳は爛々と光っていた。 脈が大きく波打つのが判る。頭がくらくらと酩酊感を訴え、指先は冷たいのに腹や顔がとても熱い。眼球が飛び出そうな感覚が襲ってきたので、再び目を閉じた。死んでも死んでも起き上がる少年を目の前の男はどう思っているのだろうか。 支配欲と征服欲に埋め尽くされた殺人者の瞳からは何も伺いしれない。エレンは、きりきりと狭まる気道と血がせき止められているが故の頭痛と手足の痺れと少しのむなしさと、その他諸々の全てを抱えてまた死んだ。 「今日は殺さないって言ったくせに」 男は笑っただけだった。 夕立の匂い 2012.07.26 10000/「リセットボタン」の続き。 |