※科学だけが極端に発達してる設定。
※一応原作設定のつもり。













エレン・イェーガーは死んでしまった。というのが全ての結論である。

こんな場所があったのかとリヴァイは少しばかり視線を走らせた。至ってシンプルな構造だが床には食指の様に何本もの色も太さも様々なコードが伸び、黒い部屋のどこかへと消えていく。空気は地上以上に新鮮だと感じるほど汚れが無く、だからこそ息苦しかった。
目の前には何やら黒く四角い縦長の立方体があった。ブラックボックス、という言葉を真に受けすぎたような箱だ。その手前には椅子がある。妙に強面の、こちらにも何本ものコードが伸びていた。
どっかりと椅子に座る。傍に置いてあったサングラスにも似た物をつけてから身体をすべて預け、目を閉じる。無機質な機械音が耳朶を打った。
目を閉じ、暫くして、開ける。
そこは白い部屋だった。白い、限りなく続く無数のタイル を踏みしめる。
「リヴァイさん」
少年の声が真後ろからした。振り返ると、ぷかぷかと少年が浮いていた。重力を完全に無視した姿勢だ。
「エレン」
死んだはずの少年の名前を呼ぶ。そうするとエレンはふわりと笑うのだ。まるで生きているみたいに。



さて、死因はなんだったか。振り返ろうとすると、まるで呼吸していたその事実だけが死因に直結しているようで、考える事をやめてしまいたくなる。ただ、決定的だったのは、恐らくその身体を抉られた瞬間だった。食われて咀嚼されて、そしてぎりぎりで助け出した。巨人化の影響か、身体は蘇生した。身体だけだった。機能は、駄目だった。彼に残されたのは仮初めの身体と脳だけだった。考える事だけはやめない、その脳だけだった。
だからだとでもいうのか。身体は切り離されて、脳だけが生かされた。身体は、多分今頃何かのサンプルにでも使われているのだろう。
では、脳は?それはここが答えだ。
言う所の仮想世界だ。器具の裏にはサブリミナル効果を組み込こんである光があり、それ を暫く眺める事で一種の催眠状態にする。他者の意識との境界を曖昧にして、そして初めてリヴァイはエレンの元へ行けるのだ。
目の前の少年がこうして生前の形をとってリヴァイの前に姿を見せる事が出来るのは、彼が生前そうであった事をまだ覚えているからだ。それすら忘れてしまったら、どうなるのだろう。
電子記号で少年は会話をする。元はと言えば人間の生み出す感情や言葉だって何がしかの電子や刺激であるのだが、しかし何と言うべきか、リヴァイはここにくると違和感ばかり覚える。エレンはぼやけたように笑う様になった。鮮烈さが無いのだ。
取り留めのない事を話すのが、彼らが会った時の暗黙の了解だ。リヴァイはまだ生きている。エレンはそうではない。死んでもいないし生きて もいない。リアルの事は、話せない。
びーっと警告音がした。三十分経つと、リヴァイはもうここにはいられなくなる。理由は、起きれなくなるから、だったか。
手を振るエレンは、ふわふわしている。物理的にも内面的にも。あの不屈と鋭さはまるで角を抜き取られたように大人しい。解放されるとはこういう事なのだろうか。判らない。
また来てくださいとは、彼は言わない。







ライムライトの毒薬






2012.07.16