※学パロ。













暑かった。
じりじりと太陽が肌を焼くのが判った。身体を起こすと硬い場所に寝転がっていたのとで、頭と節々がとても痛かった。腕はぬめりと汗を纏っている。シャツの下も例外ではない。
影はもうとっくに移動していたらしい。視線を背中側にやると、そこには心地よさそうな日陰があった。のろのろと視線を戻し、校舎側を見る。備え付けの時計が、もう昼休みがとっくに終わってしまった事をエレンに伝えてくれた。
サボろう、と心に決めて日陰のほうへにじり寄る。と、同時に扉が開いた。
先生だったらどうしよう、ああでも、そしたら気分が悪くなったので保健室に行きたいですと言ってみようか。
そんな事を考えて後ろを振り返る。
「お前サボりか」
しかし振り返る前に背中を軽く蹴られた。四つん這いでしかも寝起きだったので、エレンはたやすくコンクリートの上にべしゃりと倒れた。「うむぅあぁぁ」となんとも言えない唸りを零しながら、今度はちゃんと座って後ろを振り返った。
「………先輩も、サボりっすか」
丁度良く日陰の位置に来ていたので、そこはとても涼しく、また、居心地もよかった。
エレンの他にそこにいたのは、リヴァイという先輩だった。彼とは家が近く、幼いころから世話になっていた。エレンが中学生になる頃には、ちょっとした気恥ずかしさや周りの目の事が気になって「先輩」と呼び始めたのだが。
サボりか、という質問には答えず、リヴァイはまたしてもエレンを蹴った。肩を押されて、再び頭をコンクリートに預ける始末になった。ひんやりとした冷気に、その影にいる間だけ冷気に守られている気分になる。
リヴァイはどっかりと寝転がるエレンの隣に腰を下ろした。背が低い事は、口には出さないが多少なりとも彼のコンプレックスだろう。もしかすると、エレンに見下ろされたくなくて蹴ったのかもしれない。真偽は定かではない。
はて、とエレンはまだうまく働かない思考で考える。
この隣にいる男は今受験真っただ中ではないだろうか。最高学年で、夏で、そしてすぐ近くには期末が迫っている。頭がいいかどうか、というのはエレンは知らない。この人に勉強を教えてもらったのは、確か、小六が最後だ。
「お前はなんでこんな所にいるんだ」
「昼寝してたらこんな時間でした」
至って簡潔で判りやすい答えだ。じりじりと暑さが這い寄る夏のさなか、再び沈黙が訪れる。仰向けに寝転がって見る空はただただ高く、ただただ青く。大きさにばらつきのある雲が、味気ない彩りを加えていた。
そういえば、とエレンは思い出す。敬語をこの人に使い始めたのも、夏だったかもしれない。
最初の受験は誰だって緊張する。中学に入ったばかりのエレンと、人生で大きな分岐点に立たされていたリヴァイトでは緊張感が違った。その雰囲気に気圧されて、その時期からずっと、エレンは彼に対してよそよそしく敬語を使っている。
細く長く息を吐いた。
人生って、多分、そう言う事なんだろうなあ。と。悟りには遠く、達観にしても少々拙い納得を抱いて、エレンは瞳を閉じた。まだ、眠い。
「……………寝たのか?」
いいえ、まだ起きてます。
そう答えるほどの気力もなく、エレンは規則的な呼吸と独特のまどろみの中にいた。この時間が好きかも知れない。ふわふわとした浮遊感を味わう以外、何も、彼の邪魔をするものはいない。
額にじわりと他者の熱を感じた。手、なのだろうか?確かめる事もせず、力が抜けていくのを感じる。
手はエレンの額を覆った後、彷徨う様に頬を辿って、そして何かを嫌悪するように離れていった。汗が嫌だったのかもしれない。
「―――――」
何を言っているのだろう。おぼろげに聞き取れる声だけでは何も判らない。眠い。眠い。ねむ、い。
リヴァイがどんな言葉を零したのか、エレンはついぞ知らぬままだ。





夏に沈む





10000/先輩後輩リヴァエレ