※通り魔リヴァイとエレン。














その日はとくに当てもなく道を歩いていた。今日の夕飯はどうしようだとか、そういう事を考えていたのだ。
そしたらば人気のない道に出て、目の前を歩くのは学生服を着た少年一人になってしまった。使い古した感がある学生鞄がゆらゆら揺れる。背丈はリヴァイよりも高く、ひょろりとした出で立ちに思えた。
財布の中身を思い出しながら歩幅を増やし、スピードを上げる。夕日を見ながら腕を振り上げると、クリティカルヒット。
「………ぇ、あ」
茫然とした声が聞こえてどしゃりと砂利に落ちる音がした。頭から少年は地面に伏せり、痛そうな音を立てた。顔が横を向いて、ひくひくと動く指と瞼。呻き声が聞こえる。金の瞳が伺えた。
死なないだろうな。可哀そうに。何が、可哀そうなのだろう。
背中から刺した手頃な果物包丁を抜いて、うつぶせに蹲るその身体に、ただしくは首に向けて刺した。何とも言えない手応えと溢れる鮮血。夕日に紛れて溶けそうな赤色だった。汚れないようにすっと腕を引っ込めて、リヴァイは再び何事もなかったかのように歩きだした。財布の中身は十一万。それが今の彼の全財産だった。
近頃通り魔が流行っている。事件現場も被害者も共通点はなく、ただ判っているのは犯人はどことなく南下して動いているという事だ。間違ってはいない。何故殺したのかは判らないが、リヴァイも捕まりたくは無いのだ。だからとりあえず移動しようと考えて、南へ下っている。理由はなんとなくだ。
移動する度々に殺している気がして、少しばかり彼自身も辟易している。スリが手癖で財布を盗むのと同じように気付けば手が伸びているのだから、正直な話生き辛い。やめる事もまた、できない訳だが。
安そうなホテルに泊まってその日は一日を明かした。コンビニで適当に夕飯を買ってテレビをつけると、一部の地域を震撼させている通り魔の報道があっていた。やれやれ、ペットボトルの茶を飲み干して息をつく。殺人鬼も楽じゃない。


あの少年の事はすでに報道されたのだろうかと思ったが、この街はそれにしてはやけに静かであった。リヴァイはそれをいい事に悠々と街を闊歩する。時刻は昨日とほぼ同じ時間帯で、ぼんやりと街並みを眺めていた。
すると、だ。学生の集団が目の前を通りがかった。昨日の制服のデジャヴを感じ、リヴァイは釣られるようにそれを見る。
「――――――――」
息が詰まった。目の前の現実に、爪先が引きつる様な感覚を感じた。じわりと滲みだした背中の汗に、ああ俺は今混乱しているのかと頭のどこかが冷静に判断する。
いた。あの少年。昨日殺したはずの。間違いない。あの金の瞳。昨日、確かに殺した。
少年はタイミング良く友人たちと別れ、昨日と同じように人気のない砂利道へと足を踏み入れた。きっとそこがいつもの帰り道だろう。果たして本当にこの少年をリヴァイは殺したのだろうか。砂利の上には昨日溢れていた血だまりは無い。
少年が首をあげて空を仰いだ。夕日だ、とでも呟いたのだろうか。リヴァイは再び少年に近付き、その首を削いだ。


あれからぱたりと通り魔の報道は終わっている。エレンは皮肉なもんだなァと今日も夕日を仰ぐ。いつかやってくるだろうあの痛みと衝撃を知っていながら、スニーカーの底の砂利の感触を噛み締める。小さな、石を踏みしめる音。一回目ならば誰にも判らないであろう、小さな音。
「――――なあ、死んでくれよ」
いつもは無い囁きがエレンの耳朶を掠めた。え、と後ろを向くと小柄な男。今日はなんか悪役みたいな台詞つきなんですね、という前にやはり頸部を裂かれる。声帯が機能しなくなって、ひゅ、と喉元から空気と血が零れた。
どしゃりといつものように頭から倒れた。首がごきりと嫌な音を立てた気がした。むち打ちみたくなったのだろうか。いや、もう関係は、ないか。
地面に伏せってひゅー、ひゅーと細い呼吸を繰り返す。あと幾ばくかで、誰がどう見たってエレンは死ぬはずなのだ。だと、いうのに。
「なあ。何でお前生きてるんだ」
ひとり言の様な男の声が聞こえる。
「俺は何度お前を殺した?」
さあどうだろう手前で数えろ。そう豪気に言い放ってみたかったがそれも許されず。看取る様にエレンを見つめる男の視線を感じながら、目を閉じる。何度も見ている『最期』の夕日は、とても、綺麗で、






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2012.05.26
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