首輪は無粋だよ、とハンジが言ったのでリヴァイは渋々とエレンの首に絡み付く無骨な首輪を外した。赤い革のそれには重々しい金具が絡み付いている。
殴られた痛みに呻きながらベッドに倒れ込んでいるエレンを見遣り、ハンジはもう一度、「首輪は無粋だよ」と繰り返した。
「見え見えじゃん、誰かの所有物だって。そういうのはさ、こっそりこっそり、判る人にだけ知らしめるもんだよ」
じゃなきゃロマンがない、と口を尖らせるハンジに鼻で笑う事でリヴァイは返事をする。投げられた首輪が部屋の隅で耳障りな音を立てた。
「馬鹿言え。所有にロマンも何もあるか」
「でも首輪外したね?」
「…………………」
つまり首輪は本意ではないのだと確信しハンジはにやりと笑う。ぜえぜえと荒く息をして虚空を見つめる少年は、首輪をつけられる際どのくらい抵抗したのだろう。些細でも、このリヴァイという男の機嫌が悪かったならその抵抗は逆鱗に遭うに値するものになってしまう。機嫌がよくても抵抗するなら同じ事。
切れた口端と呼吸する度歪む顔。意識を保っている事が既に奇跡やもしれない。
「定期的にキスマークでもつけなよ」
「こいつ相手だとすぐ消える」
日によるがな、と付け加えるリヴァイにハンジもまたそっかと納得した。高い治癒能力を発揮する身体に鬱血痕など意味はない。
だから首輪なのだろう。飼い犬だと判ってて手を出す者もおるまい。飼い主が人類最強だと知ったら、尚更。
「でも本意じゃないんでしょ」
既に断定口調だった。怪我が徐々に癒えてきたか、荒い呼吸が静かなものになってきたのが両者の耳にも届いた。
「そこで登場するのがこの指輪です!」
じゃじゃーんとおかしな効果音をつけて指輪を取り出す。エセ商人か、とリヴァイは呟いたがハンジには聞こえはしない。
指輪はシンプルな作りだった。装飾もない、シンプルな輪っか。プラチナ製なのか陳腐さは無く、淡い輝きが薄暗い部屋で存在を主張する。「闇市で拾っちゃった」とウィンクするハンジに、「お前いい趣味してるよな」と呆れた様にリヴァイが言った。
詳しくは知らないが、指輪はつけた相手を拘束する意味があるのだという。細かな意味合いこそ異なるが、首輪とあまり変わりはしないだろう。指輪を受け取り、意識は朦朧としたままのエレンの左手を手に取る。ひく、と震える指先。薬指にそれを通すと、少し大きかったか根本まで通った。手首を掴んで揺らし、落ちて来ない事を確認する。
「もしエレンが指輪外したら、どうする?」
「僅かな例外を除いて殺す」
他人のものになる前に壊すという姿勢にハンジは苦笑した。嗚呼全く、存外愚直で一途な男である。
愛されてるね、と言うと、エレンの瞳が揺れた気がした。





惨事のアメリ




2012.04.30