※ぼんやりした無痛症エレン。 コンビニに行こうと思ったのだ。滅多に使わない自転車を引っ張りペダルを漕ぐ。もう空は茜色に染まりきっていて、藍色がしだいに浸蝕し始めている。この時間は空気はまだ肌寒い。 緩やかな下り坂に差し掛かった時、突如右手から人影が現れた。 時間帯故の薄暗さと唐突さにリヴァイは反応が遅れた。直ぐさまブレーキを握るが、少し遅かった。 甲高い音がしたが減速しない自転車。人影はあまりに突然で驚いたらしく、気付いた時にはいやな衝撃が双方を襲った。リヴァイは自転車ごと横に倒れ、人影は短く悲鳴をあげて仰向けに倒れたらしかった。ずしゃ、と服や身体がコンクリートに滑る音が聞こえた。 「だ、っ」 大丈夫ですか、と起き上がろうとしたのだが、叩き付けた部分全体が鈍く痛んだ。息を飲んで痛みに耐えていると、「すみません、大丈夫ですか!?」とリヴァイが言うはずだった台詞を丸ごと相手に取られた。 「大丈………っ………」 ずきりと走った痛みに顔を顰める。しかし衣擦れとコンクリートを踏み締める音が聞こえて、その痛みは吹き飛んだ。え、俺こいつ轢いたよな。そんな疑問が浮かんでは消える。 「うわ、大丈夫ですかほんと!」 轢いた相手は年端もいかない少年だった。制服らしい詰め襟を着ていて、身体の右側には轢いた跡らしき汚れがあって、だから尚更リヴァイは目を剥いた。 「おま、怪我、」 「っ、え」 少年は一瞬きょとんとして、そのあとしまった、という様な顔をした。取り繕う様に「いや掠っただけなんで大丈夫です。ほら」そう言ってリヴァイの上に倒れる自転車を、実に軽々と退けてみせた。 「そ、うか」 いいや嘘だ、と思った。確かに、嫌な手応えと衝撃が伝わったのだ。なんとも言い難い、こちらが思わず転倒する程の衝撃が。 「あの、立てますか?」 自転車が退いたぶん圧迫感と重さが引き、幾分か楽になった。 しかし、差し延べられた手が取れない。 「…………いや、」 結構、といいかけた。気持ち悪い、と正直に思った。なんだこいつ。けろっとした顔しやがって。 薄暗い中でも顔は何となく判った。轢いたのはリヴァイだというのに、心底申し訳なさそうな顔をしている。 「………………」 気持ち悪い。同時に汚い、と嫌悪感も抱いた。だがその猫みたくこちらを見上げて来る金の瞳と、生意気そうな顔の作りの中にある心配の色があまりに素直なものだから、無下にその手が振り払えなかった。リヴァイは仕方なく、その骨張った手を取る。救われた様な顔をした少年を、見て一瞬だけ殴りたくなった。なんだその顔、びっくりさせるな。 光の交鎖するところ 2012.04.19 |