りんりんりんりんりん。
「………………」
やたらとうるさい音に目を覚ます。何やら鈴のようにも聞こえた。りんりんりんりんりん。未だ響くそれは鼓膜の奥まで侵入してやたらめたら覚醒を促した。
目覚まし時計の音では無い。リヴァイは顔を顰めて、次いで窓の外を見た。音はどこからともなく響いている。空はまだ真っ黒で、あと一時間もしたら白んでくるのだろうが、こんな時間に起こされるなどとんでもない話である。
「……………クソ」
うるさい。物凄く。喧嘩を売っているのだろうか。上等だ。買ってやる。何故か窓の外だと音源を確信して乱暴にそこを開けた。静謐な空気が肌を刺した。息苦しい沈黙。全てが寝静まる空間で、リヴァイだけが意識を保っている。
窓の外には何もなかった。地上四階から見える景色は何も変わらず、しかし音だけがけたたましい。首を振ってそれを落そうにも、鼓膜は尚も震えた。
近所迷惑だろうと思ったが、前述の通り誰もいなかった。車すら通りがかる様子を見せず、雀や野良犬だとか、おなじみの様子は切り取られたように無い。
「…………………うるせえ」
りんりんりんりんりん。
音に煽られる様にして、次いで不安になった。異常だとは感じていないが、何やらこれは酷くよろしくない気がする。目を伏せる。寝てしまおう。窓を閉めて、幾分か慣れてきたせいか静まりかけているような様子を伺わせる音を無視する。
ベッドに潜り込んで深呼吸をひとつ。寝てしまえばいつも通りの筈だ。その筈だ。リヴァイは目を閉じる。もう何も聞こえなかった。



エレンは眩しい明りに瞼を上げた。燦々と差し込む日光は、暖かく起床を強制する。
時計は午後起床という学生としてあるまじき現実をつきつけた。休みでよかったと思った。なんだか最近、眠りが浅い。
机の上の携帯を手に取る。意味はあまりない。癖の様なそれは簡素なデザインだ。今の契約が切れたらスマートフォンにするかもしれないなと考えていた。流行りに乗っかりたいという願望はあまり無いが、あれだけ騒がれるなら余程便利なのだろうと思う。メールは面倒だからキー付きかな、まで考えてりりん、と何やら音がした。
「…………んあ?」
視線を上げると、無かったはずの風鈴がちりりんと揺れている。
風鈴にしてはやけに鈴みたいに奇妙な音を立てる。風も吹いてないし、第一窓だって開けてないのに、風鈴は抗議めいた音をたてた。りんりんりん。
寝ぼけた頭ではあまり深く考えず、ただ訳が判らないので首を傾げた。うるさかったので手で風鈴を押さえる。りん、と最後に音をたてた。
静かになったのでよしとする。手を放して朝食の準備をしているうち、またしても鳴り始めた。
「……………何なんだ」
ため息交じりに風鈴を振り返った。「静かにしろよ」と思わず投げかけると、不思議な事に鳴り止んだ。わっけわかんねえ、と呟く。




小心者





2012.03.22
兵長って案外ビビりな気がする。