※R17くらい。







顎が疲れてきた。
どうした、と囁かれて影山茂夫は短く首を振った。どうしてこうなったんだっけ、と考えながら再び作業を再開するために舌を蠢かした。右側頭部に添えられた大きな手はひどく熱い。同じくらい自分の身体も熱いことは、身じろぎするたびに感じるシャツの張り付く感触で判った。未だ不慣れな熱を持て余すままに茂夫は身を少し乗り出す。
それにしてもこんな中学生相手に興奮している男の顔は涼しいままだというのに、手もズボン越しの体温も茂夫の触れてる部分全てが熱かった。この男は今までどんな事をしてきたのだろう。ろくでもない人物というのは判るが、それ以上の詮索が許されていないのも確かだ。何かで口を滑らせ、洒落にならない目で「犯すぞ」と言われた時の事を思い出した。爆弾は色んな所に落ちている。
怠い顎と持ち上がらない口角を酷使してそれをもう少しばかり口腔に含む。頭を押さえる手が髪を僅かに引っ張るがそれを無視した。
「んぐ、ん………ふ、ぐ」
顎が怠くて口の端が切れそうで、それでもって呼吸は苦しかった。これ以上酸素が望めなかったらきっと茂夫の意識は落ちるだろう。喉を使うわけにはいかないとちろちろ舐めて頭を動かしていると、視界の端に霊幻の右手が、いや左手が映った。いや、え、まさか。
口を放して逃げようとする前に小さな頭をがっしりと掴んだ両手に戦慄した。前にも後ろにも引けないじゃないですかーやだーとかふざけた事を考えている場合でも、なかった。師匠、と静止をかけようとした口は塞がっていて、超能力を人に向けることは決してしないと茂夫は自らを律している。つまりだ、これは。
そろそろと、怯える野良猫のように視線を上げると、霊幻はそれはもう素晴らしく悪どい顔でにっこり笑った。

「詰んだな、モブ」

ええ本当に、と返す前にぐっと引っ張られる。
「んぐ、んむむっ、ぶっ、………んぐぅ、ぅぅ。ぃ!」
歯列を潜り上顎にぶつかり、しまいにはそれは咽頭にまでやってきてごつりと嫌な感触をプレゼントしてきた。嬉しくなかった。背筋に走った悪寒に似た感覚に脳を焼かれる前に力の籠められる両手。第二波の予感。
「むっ、ふぐ、ぃぎひっ、ふはっ、は、ぁ」
少しの律動の後、何を思ったか腰かけていたソファから身体を浮かし、霊幻は机に茂夫の背中を軽く叩きつけた。くぐもった悲鳴に心地よさそうに目を細めて、両手は頭を動かすためではなく固定するために使われる。微妙に首を上げさせているため、茂夫からするととてつもなく辛い姿勢だった。酸素が足りない。姿勢が辛い。生理的な反応から潤む視界と熱くなる顔。だが、それでも暴力的な蹂躙は終わる気配を見せない。
「もっと口、開け」
結構限界なんですけど、と言えたらばどんなによかっただろうか。無理なものは無理だし出来ないものはできない。頑張ってますアピールだけはしようと思い少し喉を反らしてそれこそ切れると本気で危機感を覚えるほど開くと、少しだけ異物と口の間に隙間ができた。久々の酸素に少し落ち着く。異物が無ければ一番よかったのだけれど。
両手に再び力が籠もる。あ、と思った時には絶妙な角度でそれが喉奥にまでねじ込まれた。異物感と吐き気に耐えながら目一杯そのままを維持する。歯を立てた時の霊幻の反応はトラウマものだった。
「ひっ、ん、うぐぅ、ぃ………む、ぎっ、ぎぅ」
ごっ、ごっと喉奥をえぐる先端。こぼれる唾液を飲み込もうとたまに嚥下の反応を見せるタイミングを見計らわれるので茂夫はとてつもなく苦しいままだった。喉が吸い付いて気持ちいいのかもしれないが、やられている方は苦痛だ。
「ん、む………、むぐ、ぐぎ、ぐ、ぃあ………っ」
段々視界が涙以外の理由で朦朧としてきた。くらくらと揺れる意識と物理的な意味でくらくらしている頭。観念したように瞳を閉じた瞬間、ひときわ強くねじ込まれたそれに反射的に瞳を見開く。
一瞬の脈動を口腔で感じ、その後に溢れた粘性の液体。どろりとした熱い精液が喉をずるずると滑り落ちていく。異物を引き抜かれた途端に茂夫は何度も咳き込んだ。身体を起こし、ソファの傍に座り込んで気孔を塞がれる前にと起こる反射に耐える。
「っうえ、げ、ごほっ、ぐっ、ぇ」
「いやあ悪い。セーブ利かなくて」
悪びれない霊幻の言葉すら耳に入ってこない。
咳き込んだせいで液体が戻ってくるのを感じて茂夫は慌てて口を押えて咳をこらえた。あの味と感触は味わいたくないものベスト3に入る勢いだ。「ん、んふっ、う」と変な声が漏れるのは判っていたがそうせずにはいられない。恨みがましそうに霊幻を睨むと、「あー」と気まずそうな顔をされた。
「なんでお前まだ中学生なんだろうな」
「………っごふ、っ、意味が、判ら、ないです」
「判らない方が幸せかもしれないと言っておこう。あーもう」
がちゃがちゃと音を立ててベルトを嵌めなおす様はさながらトイレに行った後かのよう。一発痛い目を見せてやりたいと思ったのは仕方がないだろう。なんとか精液を全て飲み込み、「ぅえ」と顔を顰めると、事を始める前と全く同じ位置でソファに座った霊幻が余ったスペースを叩いて「ほら」と言った。何故、と視線だけで問うと、学生服のボタンを片手で器用に外しながら男は言う。
「大丈夫、入れないから」
頭痛がした。





美味しくあれ





2012.10.05