※アンドロイドというかフィーバロイドというかそんな感じ。




流行りのセクサロイドと言うものを購入した。語感から判る通り、いやんあはんなことをする動くダッチワイフのようなものだと友人が言っていた。しかしその友人が連れていたセクサロイドは少女タイプで一見ただの人間と変わりない。性格など細かな設定は購入者任せらしく、そのセクサロイドはやたらと勝気な性格をしていた。鋼の様に強かで猫のようにしなやかな少女だった。実は機械です、なんて言われても信じられない。
さて、レムレスは別段性欲処理に困っているという訳ではなかった。決まった相手こそいないが悶々と性欲を抱えるほど一人ではなかったし元々彼にはその手の欲求が薄かった。『彼女』の性能を見て、なんとなく話し相手になれば、と思ったのである。ひとり暮らしはたまに無性に寂しい日があるし、他者が煩わしい時期ならば電源を切ればいい。問題ない、問題ない。
そう思って購入したのは少年型である。同じ型でもいくつか派生の容姿があるらしく、その少年も例に漏れずいくつかの派生容姿があった。レムレスは容姿など特に選り好みはしなかったし、説明を読めば派生だけあって原型の型を基準に逸脱しない範囲での改造がなされているらしい。それはいわゆる玄人向けなのではないか?とレムレスは思う。つまりは原型を買っていないと違いが楽しめないのではないか、と。ドラマのリメイクみたいに。ならブレがないであろう初期のものを買った方がいい。レムレスは購入ボタンを押した。シグ、という名前の少年型だった。
暫く日数を過ごして、家に大きな荷物が届いた。このくらいなのか、と箱を受け取りながら変に感動してしまった。荷物は大体レムレスの胸元かそれより少し下くらいの高さだった。
包装を剥がしてガムテープを外す。ナマモノ注意と書かれていて少し笑った。セクサロイドはどうやらナマモノ扱いらしい。
段ボールの箱を開けてまず最初に説明書らしき紙が目に入った。結構扱いが難しそうだというのに、その説明書は非常に薄っぺらい。ぱらぱらとめくればもう終わりだった。
「えーと………『当商品は生体素材で造られています。取り扱いにはご注意ください』『適度な食事や風呂など人間らしい生活をさせると、より人に近付きます』………へー」
全部読み切った後、とりあえず説明書を近くの折り畳み式のテーブルに置き、本格的な梱包の取り外しにかかる。定番のぷちぷちしたクッションや発泡スチロール、ビニール袋を押しのけると、鮮やかな空色が映った。
「………、」
息を呑んだ。
少年らしいきめ細かな肌や、あどけなく伏せられた瞳、軽く引き締められた唇は薄いながらも潤いがあり、これは本当に機械なのだろうかと見れば見るほど疑ってしまう。
確か、起動方法は、と説明書を思い起こしながら首筋に手を忍ばせた。その細さに思わず指が戦慄く。項あたりに指が伸びる頃、触らなければ判らないほどの小さな凹凸があった。押す。
機械独特の微かな起動音が鼓膜を小さく震わせた。ゆっくりと開く双眸に、何故か心臓が早鐘を打つ。




擬似的恋愛専用モルモット




レムレス…大学院生。友人の連れた性欲処理愛玩機械人形、通称セクサロイドに興味を持ち購入に至る。シグを受け取って三日後『すみません発送商品間違えて失敗作送りました。取り替えます』というメッセージが届いたが辞退した。
シグ…セクサロイドでも少々珍しい少年型アンドロイド。ぼけっとした性格が特徴で派生アンドロイドが出るほどの人気を誇る。レムレスの元へきた個体は実は失敗作で、左目のカメラアイと左手の部品がセクサロイドとはまた別の部品と取り違っている。



2012/06/09