※喋らないけどオリキャラがいるよ。








顔色の悪い男はその顔をよりいっそう青くしてため息をついていた。だらだらと腕から落ちる鮮血は地面に落ちて何かの栄養となっていく。虚空を見つめる瞳は不吉さを一身に敷き詰めたかのように悩ましい。
短く切った頭髪を、残った左手でがしがしと掻いて「その、つまり、なんだ?」とようやく何かを話そうとしてか口を開いた。青い顔をしてる割にその舌や口腔は熟れた果実か何かのように赤かった。
「これは、あてつけか?」
あてつけ、という言い回しが不適切と感じたか、男は眉どころか顔を顰めていた。あてつけと言ってもこれはなんに対するあてつけなのだろう。目の前の敵(と、この場合言うのだろう。男はこのような異形には一切心当たりはなかったが、それでも自分に危害を加えたということは敵と形容するのが適切なのだろう)を見て、またしても困ったように瞳を細めた。
男―――――S級八位に位置するヒーロー、ゾンビマンは終始そのようにして困惑を露わにしていた。どうしたらいいのだと目の前の対象に目線で問い続け、回答のない暴力に瞳を眇め鼻を鳴らし、砂利を眺めていた。
目の前の敵はおおよそ人間に見えなかった。まず人間は腕と手で四本の四肢を持っているはずだが、多腕種とでも言うのか、それは腕が右に三本左に三本計六本あった。その腕もまず人間には見えず、まるで、そう、鹿かなにかのようだった。目は額であろう位置に更に二つ、髪と言うよりは黒いたてがみのような毛を持っていて、まさしく獣と言った形相。口にはまるで鳥の嘴。足は鳥のそれに酷似していた。グリフォンってこういうのをいうんだっけか?とも思ったが、正確にはグリフォンは鷲の羽と上半身を持ち、下半身は獅子だという伝説上の生き物であることをここに記しておく。
ゾンビマン、かつてのサンプル六十六号はしかし目の前の物体には見覚えはなかった。ヒーローとしても実験体としても見覚えのないそれには戸惑うしかなかった。まず、これには敵意がなかった。その割には先ほどからいろんな部位が欠損を見せているのだが、それを差し引いても何も命に関わることをされてないのが実情であったのだ。
そしてそいつは喋れないらしい。クェ、だかグルル、だかよく判らない鳴き声を上げ続けている。六本の腕からそれぞれ生える大きな羽を上下に動かして何かを伝えようとしているのは判るが、如何せんどうもともできない。
「………なあ、俺にはお前の言ってることが全く判らねえよ」
ため息をつくとギィィィ、とけたたましい鳴き声を上げてそれはわめいた。うお、と思わずのけぞる。背後には何もなかったのでそのまま盛大に頭を打った。痛ぇ、と零して再び身体を起こすと、それは鉤爪を振り回してゾンビマンの頭を打ち砕いた。脳漿が飛び散る感覚と頭蓋骨が盛大に砕けた衝撃、その衝撃全てを表す一種の重さが彼の全身を襲った。
勿論頭がなくなった所で彼が死ぬわけではないのだが、それは酷く慌てて『死体』を目の前に噎び泣いた。鳴き声は声高い一鳴きにも聞こえたし、一鳴きは獰猛な咆哮のようにも思えた。ゾンビマンには未だ聴覚が戻っていないので、それを残された四肢の振動でしか理解できないのだが。
それは諦めたように背を向けた。腕は肩からではなく背骨から伸びているようだった。見るからにおぞましい見た目である。その背中に大きく刻まれた数字があった。『71』。しかし聴覚同様視覚も戻っていないゾンビマンは「俺とばっちりじゃねえか」としか考えることができなかった。ようやく全てが元に戻る事には、羽が一つと、飛び散った中身があたりに散乱していた。ゾンビマンはため息を吐いてまた同じ台詞を、今度は声帯を震わせて零した。

「俺とばっちりじゃねえか」






2012.11.18