きみと僕が〜 | ナノ
◎ せっかくするのに勿体ない
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。
本当にその一言に尽きる。
耳まで熱くしながら俯き、目線を床に向ける。
目の前で繰り広げられる濃厚なキスシーン。
自分達がしているところを見られるのも恥ずかしいと思うが、人がしているところを見るのも充分恥ずかしい。
「…んぅ…やめ、…んふ」
しかも僕の友達の男が生徒会長としている。
かれこれ2分は続いている目の前の光景だが、僕は最初の10秒で目を逸らしてしまった。
目には入らないが、卑猥な水音と苦しそうに漏れる甘い声はそれだけでも羞恥を煽る。
一体どうしてこんな状況になってしまったのだろうか。
先輩から用事が終わるまで待っていてほしいと連絡が入ったから教室に居座っていただけなのに。
同じように人を待っていると言い、残っていた縁と少し話をしていただけなのに。
2人だけの教室に、突然ドアが引かれて現れたのは縁の待ち人、生徒会長だった。
何気なくそちらへ目を向ければ、会長は僕を一睨みした後ツカツカとこちらまで長い足を進めてくる。
眉間に皺を寄せている会長をどうしたんだという気持ちで見ていたが、その会長は、座っていた縁の腕をとって半強制的に立たせたかと思えば、抵抗する縁を抑えつけて深く長いキスが始まってしまった。
会長は僕が邪魔だっただろうし、縁も見られたくなかったと思う。
僕だって見たくなかった。
だから僕が教室から出ていけば良かったんだろうけど、突然の事で数分間動けず仕舞い。ハッとしたのは会長にかけられた声でだった。
「いつまでそこにいる。この先は見せてやれないが?」
「ぁ…す、すみません」
腰が抜けたのか、ぐったりと脱力している縁を抱く会長に低く言われ、あまりの迫力にオドオドしながら慌てて教室を後にした。
教室を出てから鞄を教室に忘れた事に気づいたが、また戻る勇気はない。
先輩からの連絡はまだだけど、先に先輩のクラスへ向かう事にした。
「あ、颯太」
居ないと思っていたのだが、用事も終わり丁度教室を出るところだったらしい先輩がこちらに気づいて笑顔で声をかける。
「待たせてごめんね。先生に呼ばれてて」
「いえ」
悪いなんて本当に思っているのかは不明だが、人の良さそうな笑顔に僕も曖昧に笑う。
「颯太、鞄は?」
「ちょっと教室に忘れてきちゃって…でも今日必要な物とかないんで別に、」
「別に大丈夫って事ないでしょ?教室寄っていこう」
明日の予習もあるから大丈夫とは言いきれないけど正直戻りたくない。
あの2人、もう帰ったかな…
そんな事を考えるが先輩はもう僕の教室に行く気のようで、僕は縁達が既に帰っている事を願った。
のだが、教室から出てくる2人と見事鉢合わせという最悪な結果に終わった。
「……何だ。今度は自分が見せようと思って相手を連れて戻って来たのか?」
「ちがっ」
「見せるって何を。今度は、ってどういう事?」
会長が僕と先輩を交互に見たかと思えば、そんな事を言ってくる。
会長の言葉を聞いた先輩は張りつけた笑顔で僕と会長を見比べるし、僕は何も言えずにだんまり。
「さっきソイツが俺とこいつがキスしてるところを見たんだ。耳まで真っ赤にしてたぞ」
見たんじゃない。見せられたんだ。
「……ふーん…、人のチュー見て颯太は恥ずかしかったんだ?」
「………」
別に悪い事なんて何もしていないのに、どうしてこんなに責められてる気がするんだろう…
「興奮した?もしかして勃起しちゃった?」
「そんな!してません!」
するわけない。
全力で否定するが隣の先輩の口元は弧を描いている。
「じゃあ見られたら勃起、しちゃうかな?」
「なっ!?」
試してみる?
顎を持ち上げられながら耳元でそう囁かれビクリと身体が揺れる。
気づいた時には唇に柔らかい感触と、次いで濡れた舌の感触があった。
「ゃだ、せんぱ…っ」
見られながらするなんて、そんな趣味はない。
肩を押し返すが後頭部に手を回され更に深く舌が入りこんできて、唾液を流し込まれる。
生理的な涙で滲む目を縁達の方へ向ければ、縁は先ほどの僕みたいに俯いていて会長は嫌そうに顔を歪めていた。
そんな2人を見て、僕は精神的にも涙が出てきた。
「ふぅ…ン」
長い。いつまで続くんだろう…
先輩とのキスなら何だって気持ちいいし嬉しいから好きだけど、やっぱり恥ずかしい。
やっと解放された時には力が入らず格好悪くも先輩にしがみつく形になっていた。
「いつまで見てるの、良川」
「見せてるんだろ。行くぞ、涼」
ぼんやりと先輩達の声を聞いて、縁との気まずい明日について働かない頭で考えていた。
「チュー以上は帰ってからね」
2人だけでなら何でもいい。
実際に見せられる恥ずかしさと見られる恥ずかしさを体験した僕は、そんな事を思いながら先輩の声を聞いた。
((どんな状況でも貴方と≠ェ大前提))
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