きみと僕が〜 | ナノ


◎ 自覚してる身勝手さ


結局イかせず終まいで気を失ってしまった颯太に少し悪い事をしたと後悔する。

ソファーで眉を寄せながら眠っている颯太の、汗で額に張りついている前髪を整えながら、そんな事を思った。


「ごめんね。でも颯太が悪いんだよ?」



本屋で颯太を見かけた。
休日に学校の知り合いに偶然会ってしまうのは不運の一言に尽きるが、颯太は別だ。

声をかけようと近寄るが、当然のように一人だと思っていた颯太は他の男と笑っていた。

颯太の一番が自分だという事は、自惚れなんかではなく、紛れもない事実としてちゃんと理解している。
しかし頭では分かっていても、やはり見ていて気持ちの良いものではない。

僕は颯太と付き合っている訳じゃないし他の人間とも寝るけど、颯太にとって僕が一番であるように、僕にとっても颯太は一番だ。


別に颯太に友達がいないとは思ってないし、作るな、なんて言うつもりもない。
でもあくまで学校だけの付き合いに留めてほしい。休日にわざわざ出掛けるような、そんなまねは止めてほしい。


2人の姿を見た瞬間頭に血が上って直接割り込んでやろうかとも思ったけど冷静に考えて、思い止まる。

それならば、と思ってした電話はコール音すら聞こえなくて、無機質な女の声だけだった。
電池がないだけなのか、故意に電源を切っているのかは知らないけど、視線の先には相変わらず楽しそうに話している颯太と男の姿。

颯太なら、僕からの不在着信が1件入ってるだけで焦りそうだけど、それでは僕の気が済まない。
幾度となく電話をしたが何度しても結果は同じ。メールが返って来る事もなく、恐らく颯太の目にも触れていないだろう。


結局颯太が僕を訪ねてきたのはそれから3時間後だった。

しかし、予想通りの颯太の顔に僕はそれだけで何かが満たされるのを感じた。


半ば強引に犯して、聞き出した真実かどうかも不確かな理由は、携帯の充電がなくなっていた事に気づかなかったというもの。


「それだけならこんなに酷くしないんだけどさ、あの男はなんだったのかなー…?」

一人呟くが、もちろん返事は返ってこない。

シャワーを軽く浴び、お腹を下しちゃ可哀想だから一応後処理はしっかりとして、服も着せた。精液をせき止めていた紐も解いてあげた。
それでも射精をさせなかったのはマズかったのか、相変わらず苦しそうな表情の颯太。それを眺めて、起きたら一度イかせようかと考える。


「颯太…苦しい…?」

「…せんぱい?」

「颯太」

一人言のつもりで呟いたのだが、いつの間にか薄らと目を開いていた颯太の舌足らずな声が聞こえてきて、応えるように僕も名前を呼んだ。

「せんぱい…ごめんなさい…」

「ねぇ颯太。あの男は誰だったの?」

まだ謝っている颯太に静かに問う。

「クラスメイトで、偶然会って…」

「なんであの本屋にいたの?颯太の家の近くにもあるでしょ」

ただのクラスメイトではなく、ちゃんとした友達だという事は分かっている。
別に怒らないのにそれを隠すような言い方をする颯太に苛立ってつい口調が強くなってしまう。

「……少しでも先輩のマンションに近い方がいいかと思って」

「…まぁそれで呼び出しに気づかなくちゃ意味ないんだけどね」

「ごめんなさい……」

少しキツく言っただけでしょんぼりと目を伏せる、分かりやすい颯太につい口元が緩む。


「ねぇ颯太、僕のこと、好き?」

「…はい、大好きです」

いきなり話が変わって一瞬ポカンとした表情で固まる颯太だったが、すぐに満面の笑み付きでそう返してきた。

「どのくらい?」

「先輩は…僕の一番で、先輩のためなら何でもできます」

「例えば?」

「先輩が僕に消えろって言えば死にますし、殺せって言えば誰でも殺める事ができます。それが先輩自身でも、殺せます…ちょっと突飛過ぎますが、とりあえず先輩が望むなら、本当に何でもやります」

ちょっと、どころじゃない。
かなり突飛で、僕にとってはかなり大袈裟だ。あくまで僕にとっては。

それでも、颯太のその言葉は僕にかなり大きな優越感と満足感を与えた。


「そっか…じゃあ今日の事は許してあげる」

「あ、りがとうございます…っ!」

『許す』の言葉を聞いた瞬間、安堵の表情へと変わった颯太を見ると、眠っていた時はあんなに苦しそうだったのに、と思う。


「ねぇ、コレ、辛い?」

「え?…っァ」

先ほどより幾分か落ち着いてはいるが、まだ半勃ちの膨らみに僕は手を伸ばす。
少し触っただけで甘い声を漏らす颯太の反応に、やっぱり相当無理をさせたのかと、僕は再び後悔の波に襲われる。



流石に挿入する事はなかったが、せっかく着せた服が汚れてしまったのは言うまでもない。


((謝罪よりも望む言葉))


>前回の続きでした



 
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