きみと僕が〜 | ナノ
◎ 重い重い好きの気持ち
意識を飛ばす事も許されず、夕方から深夜まで続いた昨日のセックス。
ご飯もお風呂もなくて、口にした物と言えば、たまに先輩の口から流しこまれるミネラルウォーターぐらいだった。
僕はそのままソファーの上で寝てしまい、起きたのがついさっき。
時計を見れば短針が11を少し過ぎたところ。
キッチンのダイニングテーブルではコーヒーを啜りながら雑誌を読んでいる先輩。
「せんぱい…」
「あ、起きた?」
思ったより擦れた自分の声に驚く。
「お腹空いた?何か買ってこよーか?」
「あ、えと、だいじょぶです」
「…そう?」
昨日の昼から何も食べてないのだからお腹が空いてない訳はないはずなのに、食欲はなかった。
「病院に予約の電話したから午後イチで検査しに行こうね」
先輩はいつもと変わらない様子で、そんな事を言う。
別に検査が嫌な訳じゃない。
本当に病気をうつしてしまうより全然ましだから。
コンドームなしのセックスに不満もない。
後処理が面倒だけど先輩だから、嫌ではない。
明確な理由は分からないけど、僕の胸の中はもやもやしたままだった。
「服貸してあげるからシャワー行っておいで」
「すみません、ありがとうございます」
素っ裸な身体にかけられていた毛布を巻き付けて風呂場へ向かう。
やっぱり腰はひどく痛かった。
崩れないようにしっかり歩き、浴室の扉を閉めた所でやっと気が緩む。
シャワーノズルから出てくるお湯を頭から浴びながらホッと息をついた。
検査なんて、やっぱり生のセックスの方がいいのかな。
妊娠も病気も心配しなくていいなら、そりゃそうか。
別に嫌じゃないけど、僕はそんな事を思った。
さっぱりしながら脱衣場に出ればバスタオルと下着と服。
下着は先輩の家に置いてある僕の物だけど、服は先輩の物で。
よくよく考えてみれば先輩の家に泊まったのなんてこれが初めてだった気がする。
泊まったっていう表現はどうかと思うけど。
先輩の服というだけで、僕は妙に興奮する。
変態だなぁなんて思いながらその服を着てリビングに戻れば、相変わらず雑誌を眺めている先輩。
「洋服ありがとうございます」
「んーやっぱでかいね。」
「いえ、ありがとうございます」
ふふ、と笑う先輩に何か食べる物でも作ると提案したが断られた。
仕方ないので先輩の向かいの椅子に座ってみる。
「颯太はさ、僕が好き?」
「好きですよ?」
「そっか。僕も颯太が好きだよ」
「え…?」
突然そんな事を言う先輩に僕は目を見開く。
いや、突然じゃなくたって驚いていたけど。
儚気に笑う先輩に違和感を持ってしまって、僕は先輩がどこか遠くに行ってしまうんじゃないかと不安な気持ちなってしまう。
「ごめんね?あんな酷い抱き方」
「だ、大丈夫です!僕、先輩に抱いてもらえるだけで幸せです!だからそんな顔しないで…」
目の前の先輩の表情に僕は思わず叫んでいた。
先輩になら何をされても大丈夫だ。確かに無茶苦茶なセックスだったけど、先輩にそんな顔されるなんて我慢ならない。
どうしたらこの気持ちが伝わるのだろう。
「僕が病気じゃなかったら、生でいれてください」
「…淫乱」
思わず口をついて出た言葉に一瞬目を見開いた先輩だったけど、そう呟いた先輩はいつもの先輩で、僕は一人でホッとしていた。
ご飯も食べないで僕も先輩とコーヒーを啜り、それから先輩が予約したという病院で血液検査を受けた。
サイズの合ってない服装で病院は恥ずかしかったし、じろじろ見られてしまったがそんな事より陽性だったらどうしようという不安の方が強かった。
即日検査らしく、結果が出るまで待合室で僕達は大人しく待つ。
「先輩は僕が病気だったらもうしませんか?」
周りに人はいるからできるだけ声を潜めて僕は先輩に尋ねる。
「してほしくないの?」
そう返されてしまえば答えに詰まってしまう。
先輩にとって僕は、処理機みたいなもので、そうなると捨てられるのは確実だ。
でも、さっきマンションで言った先輩の言葉が頭から離れず僕を期待させる。
何か言わなきゃと思って口を開こうとしたその時、ちょうど看護師さんに名前を呼ばれる。
結局先輩からの答えも聞けずうやむやなまま、僕達は診察室に入った。
「そーた…っ」
珍しく切羽詰まった様子の先輩に、僕はベッドに押し倒された。
昨日は夜遅くまでやっていて、たった数時間前に着たばかりの服を脱がされる。
獣のような本能的な行為だった。
他から見れば醜い何物でもないんだろうけど、僕にとっては今までで一番満たされたセックスだった気がする。
ナカに生ぬるい熱を感じながら僕も先輩の手で果てる。
舌を絡ませながらのぐちゃぐちゃのキスをしながら、僕はやっぱり先輩が好きだと思った。
((天秤はどっちに傾くのか))
>前回の続きでした。
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