short story | ナノ



「くらえ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロングかえんほ」
「そんな技ねーから。アームストロング2回言ったから。作品違うから。ただでさえ少ない客すら逃げるから。てめー前にも増して頭沸いた?いっそ沸騰してみるか、突き落としてやろうか今すぐ」

 火山口に、と男はニヤつく。ちょっとした冗談ですら通じない。そう、私の背後は残り数歩で死への扉が口を開いている。突撃できちゃう。1レベル上げるより容易く旅立てちゃう。
 コイツの、史上最強かつ最凶かつ最狂の男の手にかかれば、瞬きするより簡単に。恐れているわけじゃない。なぜ今日はこうまで機嫌が悪いのかが解せない。

「あたしがナニしたっていうのー?」
「思い返してみろバカ」
「おめーがバカ」
「いちいち腹立つヤローだな。漫画の読みすぎだ死ね」
「おめーが死ね」

 ひくり、と彼の眉が跳ねる。あ、さすがにこの返しはまずかったか。伸びてくる手を躱わすこともできず。ほら、死までの距離はまた短くなった。地熱が背中に直接伝わる。後頭部はすでに火山口の上。もう逃げられない。
 対して、か弱い女ひとりを制圧したホムラは少しだけ機嫌が戻っている。証拠は、笑顔。爽やかすぎる。できれば夏のビーチ、恋人のものとして見たかった。だって凶暴すぎるもの、この目つき。この行為。

「よし、脳みそ蕩けちまった哀れなお前にヒントをやろう」
「現在進行形で蕩けてんすけど」
「ヒント、フード」
「ご飯食べてる途中で引っ張ってきたよねホムラさん。お腹空いたんだけど」
「ちげーよバカ。俺のフードに落書きしやがっただろうが!」

 ばれてたか。そう、あまりにコイツが理不尽な嫌がらせを繰り返すのでフードにウ○コ描いてやった。頭に汚物って、あらやだホムラさん。示すためにわざわざそれ着てこなくても。痛々しいわ、そんなことまで求めてないわ私。
 というか、同じ穴のムジナなんだけど。これが先にやってるのを見てしまった。だから実行してみた。いじめっ子黙らすには同じいじめを。目には目をってやつ。

「上司に謀反起こした罪で処罰したいと思いまーす。何か言い残すことは?」
「謀反起こされるような上司が悪い」
「へー、この期に及んでまだ言えるか。そうかそうかバカだもんな」
「おめーがバカ」
「……ウヒョヒョ」

 怒声と共に足音が近づいてくる。バカはてめーだバカ。たまには私に勝ちを譲っておきなさい。
 意外な来訪者に驚いたらしいホムラが、ついうっかりと私を解放した。と言うより、こうなって当然なのだけれども。さて、今のうちに逃げてしまおう。これに巻き込まれると厄介だ。

「じゃあね、お先にー」
「あ、逃げんなてめ」
「ホムラ貴様ァァァ!!おめ、俺の服にウ○コ描きやがったな!?」
「あー、もうバレ……いやいや、似合ってるぜマツブサ様。背中のソフトクリーム、の、描きさし」
「嬉しくねーよ!しかもなんでこんな位置で描きさし!?これだけじゃただの汚物だろうが!!お前、上司に謀反起こした罪で処罰してやる」
「……謀反起こされるような上司が悪い」
 

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