《彼女に手編みのマフラーなんていかにも青春な贈り物をされた不二裕太》
「裕太くん、イヤじゃなかったらこれ、」
使って欲しいの。まで言えないいじらしさで差し出された紙袋は可愛らしいパステルブルーだった。 そして彼女はもともと俯き加減だった首をもっとそうさせて言った。
「本当はね、バレンタインまでに渡したかったの。でも、間に合わなかった。ごめんね。」
と。裕太には、とうとう自分の爪先を見つめてしまった彼女のつむじしかわからなかった。 まるで卒業証書授与のときのような姿勢でいる彼女の両手からそっと紙袋を受け取ったら、ビクッと肩が跳ねて、それからパッと顔を上げた。
「ありがとな」
こちらも照れ気味にボソリと呟けば彼女の顔は華やいでいた。
中学2年の秋。 はじめて、彼女という存在ができた。
手先が器用で気が利いて、花の咲くように笑う可愛い人だ。 自分にはもったいない。そう思う。
彼女は、
「ねぇ、寮までマフラーして欲しいな…。ちょっとの間だけど」
そう上目遣いに頬を染めた。 放課後の教室、窓には日の落ちるのの早い冬の空。そして校舎に併設の寮棟の明かりが浮かんでいた。
彼女を女子寮棟まで送って、自分も部屋に戻る。 ほんの数分の間だけ首に巻いた手編みのマフラーを、今度新しく駅前にできたケーキショップに彼女を誘おう。確かアイツも甘いもの好きだったよな。などと考えながら外す。
そうしたら俺は、本気で彼女を好きになれるだろうか?
キレイに網目の整ったマフラーは、まだ暖房の効かない部屋で外すと少し寒かった。
Q.捨てられないものをひとつあげてください。 A.小学校の家庭科でアニキが編んでくれたマフラー。掛け違いしまくりで穴だらけで、全然あったかくねぇし…、それにもう小さすぎるのに捨てられない。ケーキショップ、本当はアニキのこと誘おうと思ってた。誰だよ。サエさんが言ってたアニキの恋人って。
突然の悲恋。ひっそりとお兄ちゃんに恋する裕太くんが好きです。 |
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